内容説明
「生前中は、皆様より格別なご厚情、ご愛顧をいただき…」という遺族の挨拶に、違和感を持つ人はいない。東アジア世界が、「現世」を「生前」と認識してきたのは、過去世、現世、来世の三世のうち、「来世」に対する尋常でない関心の強さが背景にあるからであろう。そのような観念的虚構世界は、独自の固有性を保ちながらも、多くの共通点とともに、世界各域に数多く見出すことができる。広大なユーラシアの大地を媒体とする巨大な交流総体「シルクロード」が持っている文化交流の蓄積のなかに浮かび上がる、ひとびとの来世観。
目次
1 来世観への敦煌学からのスケール(シルクロードの敦煌資料が語る中国の来世観)
2 昇天という来世観(シルクロード古墓壁画の大シンフォニー―四世紀後半期、トゥルファン地域の「来迎・昇天」壁画;シルクロードの古墓の副葬品に見える「天に昇るための糸」―五~六世紀のトゥルファン古墓の副葬品リストにみえる「攀天糸万万九千丈」;シルクロードの古墓から出土した不思議な木函―四世紀後半期、トゥルファン地域の「昇天アイテム」とその容れ物)
3 現世の延長という来世観(シルクロード・河西の古墓から出土した木板が語るあの世での結婚―魏晋期、甘粛省高台県古墓出土の「冥婚鎮墓文」)
4 来世へのステイタス(シルクロードの古墓から出土した偽物の「玉」―五~六世紀のトゥルファン古墓の副葬品リストに見える「玉豚」の現実)
5 死後審判があるという来世観(十世紀敦煌文献に見る死後世界と死後審判―その特徴と流布の背景について)