内容説明
夢のお告げに、おまじない、憑依、失踪、天変地異、ふとした拾い物や、九死に一生を得た臨死体験など、この世には人知では予測不可能な出来事がいっぱい…そんな巷間の軼事や伝説、うわさ話などを集めた『夷堅志』。そこからは南宋時代の人々の信仰や深層心理、また他の資料ではわからない細かな社会習慣など、さまざまなものが見えてくる。アジア研究の宝庫。約八〇〇年前の都市伝説の世界への招待。
目次
1 『夷堅志』が語る世界(冥府から帰還した話;「薛季宣物怪録」―『夷堅志』「九聖奇鬼」を読む ほか)
2 『夷堅志』から見えてくるもの(社会史史料としての『夷堅志』―その魅力と宋代社会史研究への新たな試み;『夷堅志』と人間法―宋代の霊異案件 ほか)
3 魅力ある南宋の文人たち(洪邁と王十朋;近年の宋代文学研究の回顧と再考 ほか)
4 中国小説研究への新たな展望(『夷堅志』と『太平広記』の距離―狐妖婚姻譚の変遷を手がかりに;「現象」としての『夷堅志』―金元研究の視座から見た『夷堅志』研究の可能性 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
志村真幸
1
南宋の見聞集・奇談集として知られる『夷堅志』について、20人の研究者がさまざまな角度から切り込んだ論文集。 日本ではもっぱら怪談集的な読み方がなされてきた本で、本書でも「冥府から帰還した話」が分析されたり、夢占いの話がとりあげられたり、日本の「稲生物化録」のような物語が紹介されたり。 しかし、『夷堅志』は怪談集だけではない。南宋の社会をのぞきこむのに役立つ多様な記録が収録されているのだ。医療知識、女性の飲食、言葉遊びなど、資料としての幅広い可能性を教えてくれる点がおもしろい。2021/12/16
アル
0
膨大な量の聞書集である『夷堅志』についての論集。 内容の考察、時代意識の資料として、書誌研究や後世への影響など、筆者ごとに様々な切り口の論考が読める。 個人的には「狐」のイメージが唐から南宋への間に大きく悪化していることや、北宋時代に巫覡が治病に神力のみ用いて医者の診察・投薬を疎かにするのを禁じる法が作られていることなどが面白かった。 史官でもあった著者の洪邁が「史書の記述は史官の偏見が入っているので事実とは限らない」というような話を収録しているのも興味深い。2021/06/21