内容説明
「正」と「偽」。古来、問われ続けてきた二項対立のかたちである。しかし、「偽」はその二項対立の一極としてのみ存在するものではない。偽書や偽文書などに見られる歴史像・世界像の生成には、その時代と環境との関係性を組み替え、再定立するダイナミズムを見出すことが出来る。「偽」なるものの捉える地平は、いかなる拡がりを持っているのだろうか。本書では、特に日本・中国・韓国・ヴェトナムなど漢字文化圏における神仏に関わる文言に着目し、「偽」なるものが持つ力と可能性を論じる。
目次
序章 偽書を取りまく「文化」の厚み―韓国の事例の一端から
第1章 東アジア諸国の「偽」の世界(インド大乗仏教における偽書・擬託の問題―とくに龍樹の著作を中心にして;中国近代にとって「偽書」とは何か―「偽書」と「疑古」の二十世紀;神々との対峙―伝李公麟筆「九歌図」は何を訴えたか;ベトナムにおける偽経と善書の流伝―仏道儒三教と民間信仰の交渉をめぐって ほか)
第2章 日本における「偽」なるものの展開(偽書生成の源泉―『天台伝南岳心要』と多宝塔中釈迦直授をめぐって;「苦凡若聖偈」の形成と享受;親鸞の実像を求めて―『高田親鸞聖人正統伝』はなぜ「偽書」と見破られなかったか;モノによる物語の真実化―モノのエトキと「伝説」;『征韓録』から『征韓武録』へ―読みかえられる泗川の戦いと狐出現の奇瑞 ほか)