内容説明
貧乏御家人の末っ子の清兵衛を、先代が後継ぎに望んだ理由はといえば、「無口で、おとなしく、律義」だったからである。当時、力をつけてきた町人にとって、貧しい武士など奉公人と同然で、しおらしかった妻も、「何かあったら唐傘一本で出て行っていただきますよ」が口癖になる始末。そんな妻が浮気を疑い、夫の股間にうどんこをまぶして外出させた。さすがの清兵衛も怒りがこみあげて、浮気の決意をするが…(表題作)。浮世をくそまじめに生きる男の哀しい人生。全4篇。
著者等紹介
小松重男[コマツシゲオ]
1931年、新潟県生まれ。鎌倉アカデミア演劇科卒。松竹大船撮影所、前進座文芸演出部、新協劇団演出部を経て、1977年「年季奉公」で第51回オール読物新人賞を受賞、作家活動に入る。1986年、「鰈の縁側」が、翌々年、「シベリヤ」が直木賞候補となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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タツ フカガワ
14
全4話の中・短編集は予想を超える面白さでした。「おんみつ侍」は越後新発田藩へ赴いたお庭番の探索行でオチがいい。商家へ婿入りしたものの女房の尻に敷かれ、奉公人にも軽く見られている元武家の男が浮気がバレて家を追い出されるという、落語噺を聞くような一編が表題作。これもオチが面白い。「鰈の縁側」は、カレイの煮つけが大好物の徳川家慶へ身をほぐす役目の小納戸役親子の滑稽から悲嘆への転回がうまい短編。「シベリア」は昭和初期、初めて行った遊女に恋した純朴な青年の切ない物語、これまで読んだ小松本なかでも屈指の面白本でした。2020/12/10
Peter-John
1
コンピュレーションです。 「おんみつ侍」は『でんぐり侍』から。 「唐傘一本」と「鰈の縁側」は『蚤とり侍』から。 「シベリア」は『シベリヤ』から。 「鰈の縁側」と「シベリア」はともに直木三十五賞候補作。とくに「シベリア」はめずらしく現代小説です。といっても戦前でしょうが。おそらく「シベリア」を世に残したかったのではないでしょうか。 「シベリア」はせつない恋物語です。タクシーの運転手という設定が、少し前の時代なので新鮮です。直木賞落選は当然かと思いますが、なんだかジーンとしてしまいました。2018/06/27
支祇
1
『シベリア』の結末が哀しく、胸に残った。また、どれも良い作品です。2015/08/09
さらちゃん
1
ほっこりして、そして哀しくて2012/10/06
Snowy
1
4つの短編が入っていますが、やはり、傑作は「唐傘一本」。抱腹絶倒。最後の落ちで、また、笑い、心地よい満足感。 最後に入っている比較的長編の「シベリア」は、タクシー会社のオーナー夫婦、先輩との心温まる交流は楽しかったけど、恋の行方は、ハッピィエンドが良かったな。 2011/06/30