出版社内容情報
ルターに先んじたフス宗教改革。帝国を解体し、民族・国家意識を誕生せしめ、近代への扉を開いたその思想・歴史を明らかにする。
内容説明
危機の時代に求められる革新の思想とは?ルター、カルヴァンより早かった15世紀チェコの宗教改革の真髄を明らかにする。
目次
序章 いま「宗教改革」を知ること
第1章 チェコの宗教改革者ヤン・フス(中世哲学の影響;ローマ教皇が3人いた時代 ほか)
第2章 フス宗教改革の内在論理(近代とは何か;キリスト教の時間観 ほか)
第3章 近代チェコ史から見る民族、国家とキリスト教(オーストリア=ハンガリー帝国からの脱却;ナチズムの台頭 ほか)
第4章 フス宗教改革の遺産(「あの世」ではなく「この世」の宗教;偶像崇拝から抜け出すには ほか)
著者等紹介
佐藤優[サトウマサル]
1960年生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。2002年背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、09年最高裁で執行猶予付有罪が確定し失職。14年執行猶予期間を満了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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trazom
59
宗教改革はルターの95条の掲題(1517年)を嚆矢とされているが、その精神は百年前のヤン・フス(及びウィクリフ)によって先取りされている。しかも、ルターの上からの改革、カルヴァンの特権階級市民に対する改革と比較して、フスの意識は、自由・平等・世俗性など近代にも通じる画期的なものである。本書は、フスの改革の要点(救霊予定説、両種陪餐、チェコ語聖書)を整理した後、フス派の伝統に根差したチェコ建国の物語やフロマートカの神学へと議論は飛翔する。いつもながら、佐藤さんのフロマートカへの思い入れの強さが迸り出ている。2020/10/10
kawa
24
15世紀ルターに先んじて起こったチェコでのヤン・フスらによる宗教改革の革新思想を、現下日本の直面する危機に応用できないかを論ずる。その思想とは、「今日の困難と憂慮の責任を、他の誰にでもなく自分に課す気になるだろう。(フロマートカ)」、「いま自分が置かれている場所で行動する(佐藤氏)」ことと理解。そのためには、佐藤氏が言うように「自分の手の届く範囲を超えた価値、理想といったものを持つ(ことにより)、自分を相対化(する)」必要があるのだろうし、宗教や哲学の価値も実践原理とするところにある。(やや難解) 2020/11/06
templecity
14
西洋では中世と近世に明確な境目がある。カトリックとプロテスタントが折り合った時点。ソ連や中国は緩衝地帯とする国があることが都合が良い。モンゴルや北朝鮮、東ヨーロッパ諸国がそれにあたる。西欧では国家になるべく権力を持たせないようにと考える。対する共産国家の考えは民衆が一定以上の裕福な状態になるまで善意なる国家が統制する。周辺国が国家であるため、仕方なく半国家の状態となる。そして時には暴力が伴う。等々 2020/12/10
NY
10
15世紀ボヘミアのヤン・フスが主導した宗教改革運動は、自由や平等(民衆が主役)、世俗語の優位性などの徹底した意識で近代を先取りしていたという(さらなる先駆者としてオックスフォードのウィクリフ)。権力に融和的だったとも言われるルターや、富裕市民中心のカルヴァンに比べて非妥協的で、より透徹された意思に貫かれていのだろう。故にフスは火炙りにされた。しかし、フスとフスの運動は、時を超えて、チェコ(ボヘミア)民族の精神的支柱になっている。なかなか、日本では想像しにくいことだ。2021/10/03
はるわか
7
中世と近代を分ける1648年ウェストファリア条約。ルター、カルヴァンに先んじて、15世紀ボヘミア(チェコ)のヤン・フスとフス派による宗教改革。社会と教会が一体化したキリスト教(宗教)中心の時代から、民族・国家が主権をもつナショナリズムの時代へ。聖書のチェコ語訳、世俗語の優位性を意識。フスの火あぶりとフス派戦争。キリスト教の時間観:クロノスとカイロス。自殺、殺人が許されないのは、時間は神が管理しているから。人間に自力救済はできないとするキリスト教。不合理だからこそ信じる。信仰とは感化すること。2021/01/24