出版社内容情報
漱石が『草枕』で近世文人の風雅な趣味「煎茶」をことさら称揚するのはなぜか。中国・日本の煎茶史を通して新しい過激な漱石を発見!
序章
『草枕』を愛する二人/知っているつもりの漱石/猫の死/滑稽と諷刺
「太平」と「癇癪」
? 『草枕』と煎茶
1 『草枕』を読みなおす
「煎茶」からの接近/『草枕』のおさらい/「文人」との親近/『草枕』論の少なさ
2 『草枕』と煎茶
茶を振る舞う/「煎茶」──近世文人の風雅な遊び/「煎茶」対「茶の湯」
漱石の茶の湯批判
3 小川可進の煎茶
『草枕』における煎茶場面の位置/小川可進とその煎茶/可進の功績
可進の煎茶席につらなる人々
? 「煎茶」精神の歴史
1 茶と文学──唐代「茶道三友」
煎茶の誕生/陸羽と皎然/唐王朝と煎茶
2 盧仝の煎茶精神
盧仝の煎茶と風刺精神/「月蝕詩」/陸羽のもう一面
3 王朝の伝習としての茶
平安王朝に息づく唐代の煎茶/日本最古の茶会記録
4 近世の煎茶精神──尊王と反体制
抹茶に変わる葉茶の到来/煎茶将来についてのさまざまな説/後水尾院と隠元
道澄の「煎茶」主張とその影響/売茶翁──黄檗僧から一服一銭へ
売茶翁の名、海内にかまびすし/売茶翁の有心
? 漱石の生涯、学問、思想
1 歴史と文学
王朝への忠義・忠節/「左国史漢」への傾倒/カーライルへの想い
2 民を済う思想
弱者への視線/子規への二銭郵券四枚張の長談義/「細民」への配慮
3 沸騰する脳漿
英文科時代の漱石/沸騰せる脳漿──日清戦争
両頭の蛇を切断する──変節者への怒り/文字の奇禍を買う/陸游への想い
4 熊本と煎茶
松山行き・松山落ちの真実/熊本でのレッスン/案山子と自由民権運動の別天地
煎茶への関心の深まり/煎茶の部屋
5 狂気と探偵嫌い
英国留学「夏目狂せり」/探偵恐怖症/『猫』のなかの探偵
『草枕』に見る探偵/生涯にわたる執拗な探偵罵倒
? 『草枕』の思想
1 方法から、時代から
『草枕』の諷喩/明治ノ三十九年ニハ過去ナシ/『草枕』執筆の時代背景
2 『趣味の遺伝』の戦争
『趣味の遺伝』の戦争/詩的に想像された戦場
3 『草枕』の思想
『草枕』の終章に見る現実/革命の危機/「憐れ」の完成
「維新の志士の如き烈しい精神で文学をやって見たい」
終章
付記
小川 後楽[オガワ コウラク]
著・文・その他
内容説明
『草枕』で、主人公の画工は茶を振る舞われる。「濃く甘く、湯加減に出た、重い露を、舌の先へ一しずく宛て(ずつ)落して味って見るのは閑人適意の韻事である」それは、茶の湯ではない文雅な煎茶。なぜここに煎茶が描かれるのか?それはどんな漱石を照らし出すのか?
目次
1 『草枕』と煎茶(『草枕』を読みなおす;『草枕』と煎茶;小川可進の煎茶)
2 「煎茶」精神の歴史(茶と文学―唐代「茶道三友」;盧仝の煎茶精神;王朝の伝習としての茶;近世の煎茶精神―尊王と反体制)
3 漱石の生涯、学問、思想(歴史と文学;民を済う思想;沸騰する脳漿;熊本と煎茶;狂気と探偵嫌い)
4 『草枕』の思想(方法から、時代から;『趣味の遺伝』の戦争;『草枕』の思想)
著者等紹介
小川後楽[オガワコウラク]
煎茶家(小川流煎茶6代目家元)。1940年京都生まれ。立命館大学文学部日本史学科卒業。専攻、日本近世思想史。京都造形芸術大学教授を務めた。2016年9月歿(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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