内容説明
義経は衣川で死ななかったのか?本当に北海道へ渡ったのか?江戸時代に起こり、近代まで連綿と続いた義経生存説。敗者の弁として成立した「判官びいき」の起源を探り、江戸時代の偽書と学者たちの甲論乙駁を辿り、近代の義経=成吉思汗説を検証する。北海道渡海説や、義経=成吉思汗説を支えた、日本人の歴史的な心理構造とは何であったか。
目次
序章 義経生存説三〇〇年の「運動」
第1章 義経は自滅した
第2章 判官びいきと敗者の群れ
第3章 義経生存説運動の開始
第4章 義経生存説運動VS学問の攻防戦
第5章 利用される義経生存説運動
第6章 不幸の反動としての義経生存説運動
第7章 『成吉思汗ハ源義経也』と義経の死
おわりに 「判官びいき」の終焉
著者等紹介
森村宗冬[モリムラムネフユ]
1963年長野県生まれ。作家。大東文化大学文学部卒業。高校教師を経て、著述活動に入る
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感想・レビュー
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へくとぱすかる
53
源義経生存説の行きつく先は、チンギスハーンになったとか、清朝のルーツであるとか、いずれにしてもトンデモ説になっていく。何も大正時代にいきなり唱えられたのではなく、はるか以前から存在し、「判官びいき」という言葉も生んだ。本書は義経伝説の史実と「判官びいき」の実態を分析して、「そうあってほしい」という心情がエスカレートしていき、戦前の海外への侵略を助長していくまでを述べる。史実を受け入れない、受け入れたくない心情が、ときには悲惨な結果を生む。弱者への共感といいつつ、負の感情を増大させることには警戒しなければ。2022/06/25
紫
5
後世の民衆は何故源義経を生き返らせ、大陸へ渡らせてジンギスカンの正体に仕立ててしまったのか。源義経生存説の変遷とそれぞれの時代背景を通して、日本人の心性や世界観を読み解いていく「歴史の真相」なのであります。源義経の生存説が登場するのは死後五百年以上が経った十七世紀の後半、遂にジンギスカンと合体するのは十九世紀中頃。当初は「美しいロマン」であるユートピア思想だった義経生存説が、「醜いおのれの独りよがり」としかいいようのないナショナリズムへ変貌していくさまを著者は史料を駆使して解き明かしていきます。星五つ。 2020/04/25