出版社内容情報
デザイン・詩・社会主義に巨大な功績を残した万能人モリス。その華やかな生涯と多彩な仕事の全てを概観した、本邦初の書き下し評伝。
蛭川 久康[ヒルカワ ヒサヤス]
内容説明
ケルムスコット・プレスに代表される近代デザインの父、優れた詩人にして社会主義者。生涯を通じて美と真実とその表現を真摯に求め、絶え間ない前進を続けた輝かしい「知の多面体」ウィリアム・モリスの生涯と作品とを叙述する、本邦初の全編書き下ろし評伝。
目次
第1部 「楡の館」から「赤い家」(一八三四~五八)(ウォルサムストウとエッピングの森;オックスフォードの風景―中世とオックスフォード運動;北フランス、ゴシック大聖堂の旅 ほか)
第2部 「赤い家」から「ケルムスコット領主館」(一八六〇~八二)(「赤い家」―“家というより一篇の詩だ”;モリス・マーシャル・フォークナー商会;モリス・デザインの先行者たち ほか)
第3部 ケルムスコット領主館からケルムスコット・ハウス(一八八三~九六)(ケルムスコット領主館―“太古の安らぎを秘めたまたとない隠れ家”;彩飾手稿本『詩の本』;モリスのコンフィダントとジョージアーナ・バーン=ジョーンズ ほか)
著者等紹介
蛭川久康[ヒルカワヒサヤス]
1931年東京生まれ。東京大学教養学部イギリス分科卒業。専攻、英文学・英国文化史。現在、武蔵大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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壱萬参仟縁
40
モリスの生涯に通底するのは、現実の批判から出発して、芸術の復権を可能にする社会を希求し、それを自らの夢として、その成就のために全力投球に徹した革新的・ローマン的精神(6頁)。テムズ川はモリスの川として、モリスの生活に色濃くその気配が漂う(23頁)。石工の不安は、完成を間近にして、ともすれば陥りがちな慢心を戒めようとする敬虔な自制の心情である。歓びは石を刻んだ職人一人一人の生命と自由の証しであり、中世の彫刻家や彫り物職人がたとえ粗削りで均一性に欠けるとしても、人間は元来道具のように正確・厳密に仕事するように2017/05/01
松本直哉
18
妻となる女性ジェインをモデルに油彩「グィネヴィア」を描いたとき、モリスはこの王妃の象徴する複数愛あるいは騎士道的恋愛を自らの未来として予見していたのではないかという指摘にうなずく。その後の結婚生活でジェインの二度にわたる婚外恋愛を黙認あるいは許容したのは、『ユートピア便り』での婚姻否定の思想と軌を一にする。モリスにとっては生活と思想や芸術は切り離せないもの。だから日常の調度にも美を求めた。ラファエル以前への芸術への憧憬が単なる復古趣味ではなく、返す刀で痛烈な文明批判となりえたのもこのためだろう。2018/11/04