出版社内容情報
ガザーリーは11~12世紀にイスラームの神学・哲学・神秘主義を深め、イスラーム思想独自の地平を切り開いたイスラーム最大の思想家の一人。その思想遍歴を代表する三編を収録。
内容説明
イスラーム神学最高の地位を捨てスーフィーとなった魂の自伝『誤りから救うもの』、哲学批判を経た神学を闡明した『中庸の神学』、神の光の啓示を論じた『光の壁龕』。ガザーリー代表作三篇を収録。
目次
誤りから救うもの(真理の探求;懐疑と知識の否定;真理探求者の種類;啓示の本質とその必要性;引退後に再び教鞭をとった理由)
中庸の神学(序論;至高なる神の本質についての考察;神の属性;至高なる神の行為について;預言者性と来世の出来事)
光の壁龕(「光の啓示」の意味;光と闇のヴェールの意味)
著者等紹介
中村廣治郎[ナカムラコウジロウ]
1936年生まれ。ハーヴァード大学大学院博士課程修了。哲学博士(Ph.D.)。東京大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
有沢翔治@文芸同人誌配布中
12
ヨーロッパではアルガゼルと言う名前でも呼ばれています。イスラム教徒らしくアラーやムハンマドに対する賛辞が大仰。しかし十二、三世紀までの知性は中東にあったのは疑いない。例えば、自我についての考察は、デカルトの500年も昔だと言うのに、デカルトが書いたと言われても、信じてしまうほど。日本ではイスラム科学が低く見られがちだけど、もっと翻訳が出て欲しいです。http://blog.livedoor.jp/shoji_arisawa/archives/51478735.html2016/10/08
roughfractus02
6
哲学の側から哲学を批判しつつ神学の存在証明に至る著者の方法は、読むごとにプラトンの対話編、アリストテレスの運動論を思い起こさせ、感覚的知識を疑う後のデカルト的懐疑やヒュームの経験論をも思わせる。一方、理性か啓示かという前著での問いは生きており、その間にある人間の倫理的思考こそが「中庸」と呼ばれ、哲学的な議論は知覚や経験による言語的知識を帰謬法的に論駁するために導入されていることが、本書では明確に示されている。世界が原子から成るという原子論に対しては、これが真ならば神は非物質的ゆえに世界の外にあると論じる。2022/08/31
Nemorální lid
4
『伝統的信条に対する確信の喪失という、自己の精神的危機からの脱却をスーフィズムの中に見出した』(前 p.7)ガザーリーは、その『彼の生涯のための弁明』(解 p.458)として自伝を書いた。当著に収録されている「誤りから救うもの」である。『正統神学の立場からの神学的批判ではなく、哲学者と同じ土俵内での哲学的批判であった』(解 p.466)通りで、あくまでも信仰と理性との対立を哲学観から描いている。神学と神秘主義の結び付きの萌芽とも言える当著の哲学的な神秘的直観から、後の中世のスコラ哲学が垣間見える気がする。2019/01/14