内容説明
ペルシアの神秘主義詩人の代表作を本邦初訳。さまざまな比喩、物語、逸話によって神秘主義思想を表現。神である霊鳥を探し求め、鳥(神秘主義者)たちがたどる苦難に満ちた旅。
目次
第1章 書の初め
第2章 鳥たちの集合・会議(ヤツガシラの発議;スィーモルグの話;サヨナキドリの話;オウムの話 ほか)
第3章 シェイフ・サムアーンの物語
第4章 鳥たちとヤツガシラの問答
第5章 谷の描写
第6章 スィーモルグの御前の三十羽の鳥
著者等紹介
黒柳恒男[クロヤナギツネオ]
1925年愛知県生まれ。東京外事専門学校(現東京外国語大学)卒。専攻ペルシア語学・文学。現在東京外国語大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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syaori
53
イスラム神秘主義の観想の過程が、霊鳥スィーモルグ(神)を求めるヤツガシラ(導師)と鳥たち(弟子)の問答と旅に仮託して描かれます。彼らが語るのは、存在は「大海の一滴」に過ぎないということ。目指すのは、意識を深めて自我消滅に至り儚い現世のすべての事象が渾然となるその「大海」に至ること。それは神との合一で、一(神)は多(現実の事象)であり多は一であるという境地。物語として語られる比喩には意図が汲みにくいものもあったものの、全体としては大変美しく、神秘主義の「道」を、物語として様々な面から捉えることができました。2019/10/18
nina
29
アッタールは12-13世紀にかけてペルシアで活躍した神秘主義詩人。霊鳥スィーモルグを求めて数多の鳥たちはヤツガシラに教えを乞い、苦しく危険な旅に出る。この鳥たちの問答は中沢新一訳のチベットの大衆向け経典『鳥の仏教』を思い起こさせるが、もしかしたら『鳥の仏教』がこの作品を参考にしてるのかもしれない。さらに、頻繁に描かれる万物を無と見なす教えは仏教の「一切皆空」へと繋がっていくのは日本人なら自然な発想だろう。ときに女性(美少年含む)への愛に例えられる神への熱烈で真っ直ぐな愛に圧倒される。愛がすべて、他は無。2014/10/12
ロビン
21
12~13世紀イランの神秘主義詩人アッタールによる比喩物語詩。カーフ山に住む霊鳥スィーモルグ(神)のもとに辿り付くため、様々な鳥たち(弟子)はヤツガシラ(導師)に指導されて七つの谷(神秘主義の修行)を越え、最後に試練に耐えた三十羽の鳥たちが神秘主義の究極目標である「自我消滅」(神人合一の境地)に達するという筋になっている。ユダヤ教徒への寛容を説いていたり、相手が異教徒であろうと誠実さにおいてその人が神秘主義者より勝っていたら相手の方が偉大であるとしていたり、時に難解な比喩物語の間に人間主義がのぞいていた。2020/08/06
roughfractus02
8
言葉で作った世界は真の実在ではないという主張を言葉で表すには、同一でないものを似たものとして表す比喩が用いられる。数千羽の鳥達が悟性を惑わす7つの試練に耐えてスィーモルグ(Sīmurgh) なる王の鳥を探す旅の物語は、最後に試練に耐えた30羽の鳥(sī/30-murgh/鳥)自身がその鳥だったことを示して終わる。この物語は、言葉の意味よりも詩的な音の類似によって真の実在である神を音楽(鳥の言葉)的に示す。試練の描き方では、スーフィズムの指導者がキリスト教女性に惹かれて改宗するが、という話の展開が興味深い。2022/09/01
よしあ
1
ペルシアの歴史は勉強不足でさっぱりですが、雰囲気だけでもと思い。イスラムの信仰に殉じるなら命も惜しくない、のだな。異教徒には不条理に感じるが、それが信仰なのだろう。2022/07/01