内容説明
デデ・コルクトとは賢人にして吟遊詩人の名。トルコ系遊牧民オグズ族の英雄たちの物語を生き生きとした声で歌い、語る稀有の書物。中央アジアからトルコにかけての歴史的記憶を湛える。
目次
慈悲深く慈愛あまねきアッラーの御名において
ディルセ・ハーンの子ボガチ・ハーンの物語を語る
サルル・カザンの幕舎が掠奪された物語を語る
バイ・ビュレの子バムス・ベイレキの物語を語る
カザン・ベグの子ウルズ・ベグが虜囚となった物語を語る
ドゥハ・コジャの子デリ・ドムルルの物語を語る
カンル・コジャの子カン・トゥラルの物語を語る
カズルク・コジャの子イェゲネキの物語を語る
バサトがデペギョズを殺した物語を語る
ベギルの子エムレンの物語を語る
ウシュン・コジャの子セグレキの物語を語る
サルル・カザンが虜囚となり、その子ウルズが救い出した物語を語る
内オグズに外オグズが叛いてベイレキが死んだ物語を語る
著者等紹介
菅原睦[スガハラムツミ]
1963年福井県生まれ。京都大学大学院文学研究科修士課程修了。現在、東京外国語大学外国語学部助教授。専攻、言語学・中期チュルク語
太田かおり[オオタカオリ]
1975年東京都生まれ。東京外国語大学外国語学部(南・西アジア課程トルコ語専攻)卒業
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感想・レビュー
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syaori
32
セルジューク朝などを建てたオグズ族の英雄譚。オザン(吟遊詩人)が語り継いできた英雄物語を元としていて、中央アジアの草原の雰囲気に浸れます。何より虜囚となって16年後に劇的な帰還を果たすベイレキの、捕らわれた息子を奪還するために駆けるカザンと、その夫カザンを追って馬を走らせ夫を励ますボルラ・ハトゥンの、猛り立つ獅子や牡牛、牡駱駝を倒して王女に求婚するカン・トゥラルの、虜囚となった父親のために兵を挙げるイェゲネキの、名誉と血を重んじる高貴で勇壮な生き方に接して、どうして彼らに魅了されずにいられるでしょうか。2017/01/30
きゅー
15
アナトリア東部(トルコ、イラン、アゼルバイジャン)のオグズ族の英雄たちにまつわる物語集。先日読んだカマル・アブドゥッラ『欠落ある写本』は本書の内容を換骨奪胎しており、せっかくなので本書も読んでみた。12篇の物語が収録されているが、内容は幾つかのモチーフが再使用されている。一番多いのは異教徒に父(兄、息子)が捕らえられるのだが、それを父(弟、息子)が助けに行くという物語だろうか。敵に敗けそうになると、彼らはアッラーに祈りを捧げる。すると超人的なパワーが与えられて勝利するという構図は、ある種の様式美だ。2018/02/01
秋良
14
東部アナトリアをメインに、中央アジアからトルコにかけて遊牧生活をしていたオグズ族に伝わる英雄譚。イスラム化していく中にイスラム以前の民話が混ざり、有名な千夜一夜物語とはまた違った味わい。オグズ族はテュルク系なので地名や人名が今のトルコ語に近く、懐かしい響きでもあった。名誉を重んじる遊牧民の生き方は日本の民話より荒々しくて新鮮。そういえばデデ・コルクトが持ってるコプズみたいな楽器、ウズベキスタンで見たなあ!2025/04/27
ヴィオラ
10
「欠落ある写本: デデ・コルクトの失われた書」予習のため。こういう機会でもなければ読まなかったかも。こういう出会いは嬉しいものです。中央アジア~トルコに暮らしていたオグズ族の口承伝承をまとめた書。物語の最後にちょこっと出てきて、したり顔のデデ・コルクトに毎回笑うw2017/11/07
Oltmk
2
イスラム化したテュルク系の英雄叙事詩である本作も、テュルクの英雄叙事詩諸作品らしく複数の歴史的事実とイスラム的要素が組み合わさった作品となっており英雄譚らしい怪物退治のお話も一つしかない程の作品となっているが、中世の時代に持っていたテュルク系の価値観に触れる事が出来るため興味を持っている人間には読んでほしい書籍の一つ。 複数のお話がややテンプレート化したお話の一つなのは否定できないが、面白くなくて読みにくいというわけではない。2020/04/26