出版社内容情報
時代の底辺で変革期を生き抜いた人々の挫折と夢の物語から、現代を逆照射する日本の転換点を描く。明治150年の今年必読の評論集。
渡辺 京二[ワタナベ キョウジ]
著・文・その他
内容説明
名著『逝きし世の面影』の著者が「もうひとつの明治」を描く、傑作歴史評論集。時代の底辺を直視した山田風太郎の明治シリーズ論から彰義隊崩れの挫折への眼差し、司馬史観への批判的考察、士族反乱の知られざる物語まで。維新の陰に埋もれた無告の民への共感から紡ぎ出される歴史叙述には、正史を異化する力がある。
目次
第1章 山田風太郎の明治
第2章 三つの挫折
第3章 旅順の城は落ちずとも―『坂の上の雲』と日露戦争
第4章 「士族反乱」の夢
第5章 豪傑民権と博徒民権
第6章 鑑三に試問されて
付録 対談 独学者の歴史叙述―『黒船前夜』をめぐって×新保祐司
著者等紹介
渡辺京二[ワタナベキョウジ]
1930年、京都生まれ。大連一中、旧制第五高等学校文科を経て、法政大学社会学部卒業。評論家。河合文化教育研究所主任研究員。主な著書に『北一輝』(毎日出版文化賞受賞、ちくま学芸文庫)、『逝きし世の面影』(和辻哲郎文化賞受賞、平凡社ライブラリー)、『黒船前夜』(大佛次郎賞受賞、洋泉社)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
100
渡辺さんの「逝きし世の面影」は既読ですが、少しほかの本もということで手に取りました。さまざまなところで発表されたものをまとめたもので、ある題材をもとにその文献についての詳しい論考がなされています。私はとくに「山田風太郎の「明治」」と「「旅順の城は落ちずともー「坂の上の雲」と日露戦争」が印象に残りました。前者はとくに山田の明治小説集を取り上げていて、山田がかなり資料を読み込んでいることを評価しています。後者は逆に辛口の評価ですが、良いところもあると言っています。山田の作品を読みたい気にさせてくれました。2023/08/07
Sam
57
そういえば「逝きし世の面影」も読みかけのままだったなあと思いながら本書をパラパラとめくったら山田風太郎の明治シリーズについて書いてあったので購入。その面白さや素晴らしさを詳しく論評していて何度も頷かされたし、個々の作品もさることながら「倫理も心情も踏みにじる歴史の進歩に対して一矢報いずにはいられないというのが彼の作家としての基本的立場」、「いわゆる真善美の世界を転倒する邪悪な眼で貫かれているにもかかわらず、崇高な真善美への憧れが常に伴っている」という評価もまさにその通りと思った。未読の作品を読まないとな。2023/01/09
tonpie
40
渡辺京二初読みなのだが、この人の「歴史観」に感服してしまった。「歴史」もフィクションである。というか、歴史こそフィクションなのだが、そのリアリティを保証するものは何か?「その時代の雰囲気がどうであったかというのは、その時代に生きていた人々の課題が何であったかということですね。それを具体的に明らかにできなければ、歴史など書けない」p208引用。 この本は、明治の「士族反乱」「民権運動」の精神について、山田風太郎、司馬遼太郎を論評するなかで明らかにしてゆく。↓2025/01/25
紙狸
11
文庫は2018年刊。最初は「書評なのか」とあてがはずれた思いがしたが、読み進めると面白くなった。坂口安吾、長谷川伸、山田風太郎らの作品を題材に、歴史の語り方を論じる。「敗者の歴史に注目したからといって、私たちはその社会変動の全体を叙述したことになるのだろうか」。この問いかけに深くうなずく。敗者に寄り添い、敗者の視点から歴史の変動を描くーというアプローチは近年、当然視されるが、そうすれば良い作品や研究ができるというものでもあるまい。筆者は、勝者でも敗者でもない膨大な生をイメージすることを提唱する。2019/11/29
勝浩1958
10
渡辺氏が描く歴史は社会科学ではなくて、批評性をもった文学にも通じる物語的な歴史であるから読んでいて楽しい。その時代の状況が眼の前に拡がってくるような感じが心地よい。2022/01/22