内容説明
世界史上、その存続自体が僥倖ともいわれる、海の都ヴェネツィアに暮したとき、通りすがりの旅人には見えにくい、さまざまな現象や風景が見えてくる。―歴史、美術の話題をも交えて贈る、人なつっこく、ノスタルジックな滞在記。
目次
まちへ
家
路
舟
絵
歌
店
芥
東
島
祭
まちから
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ネギっ子gen
57
【何もしないで座っていても、ヴェネツィアのまちは呼吸を続けている。その富と魅惑は生き続けている。何を今さら、あくせくと、動くことがあるだろうか。甘美な無為。私一人だけの、心浮き立つまつり】上野千鶴子先生ご推薦。世界の縮図を生きているかのようなヴェネツィアの暮しを、歴史や美術の話題など交えて贈られた、ノスタルジックな8か月の滞在記。良書。1994年刊(単行本は1987年)。解説の須賀敦子は、<対象を忍耐ぶかくじっくり見定める著者の、まれな教養と素質が、爽やかな理性に支えられてどの章にも光を放っている>と。⇒2025/01/31
みねたか@
25
夫の赴任に伴い滞在したヴェネツィア。島,舟,家,路などのテーマで描く。本書の魅力はその二面性。一つはジャーナリストらしい細やかで客観的な記録。もう一つは豊かな感受性による詩的な散文。夜,自動車の音が全く聞こえない街で憩う生き物たちの気配,車もスーパーもない人と街の付き合いの密度,高潮に行き交う色鮮やかなゴム長靴、ブラーノ島の修道院の庭のひっそりとしたたたずまい。舟の行き来と水のざわめき。各編の中に様々な著者の姿がそっと忍ばされている。2019/12/23
あ げ こ
15
矢島翠が教えてくれるヴェネツィアは、そこに住む人々にとっての現実であり、当然であるヴェネツィア。旅行者が身勝手に見続けて来た夢になど左右される事なく、ただ自身の現実を、毎日を生きている人々のヴェネツィア。それが彼等の当然であり、日常の空間である事にこそ、凄さを感じるような。ごみも、洗濯物も、当たり前にあるヴェネツィア。人々の生活の証とも言うべきもの達が、当たり前にあってなお、非日常的な魅力を放ち続ける、不可思議で、深遠で、生きているヴェネツィアを。何か、特別な意味付けをする風でもなく、誠実に教えてくれる。2017/07/07
つーさま
9
本書は12章から成るが、それはまるでヴェネツィアの街を走る無数の小路のようで、入ってみるまでどんな光景が広がり、どこにつながっているか分からない、実にミステリアスな構成となっている。歴史や芸術など多岐に渡る知識に裏付けられた、上品でユーモアに富んだ表現が、想像の中のヴェネツィアに様々な色を施していく。そして色付けられたイメージの上に、この街に潜む陰がオーバーラップするように重ねられ、自然と立体感を生み、また同時に現実を強く意識させられた。過去と現在とが美しく融合する水の都に私も一度でいいから行ってみたい。2013/08/19
Cちゃん
7
須賀敦子さんの本の中で、この本を知り手に入れました(今は絶版かと…)作者が暮らしていた頃のヴェネチアを家、舟、店、など、それぞれのテーマで書き記したエッセイ。一つ一つのテーマを自分の感じたままだけではなく、史実に基づき、また、ご自身でも調べたりしての、丁寧で、確かな事実、さすがは共同通信の記者!しかしそれだけではなく、自分の感じた事、思った事も、美しい言葉、表現で記されていて、ホントにステキ。見つけてよかった。また読み返したい一冊。2019/08/21