出版社内容情報
「戦国の梟雄」と語られるも、将軍殺しや信長との三度敵対などは事実でない。室町社会の家格秩序に挑んだ改革者として再評価する。
天野 忠幸[アマノ タダユキ]
著・文・その他
内容説明
“稀代の悪人”“禍々しい怪人物”と評された人物は、長らく続く武家社会の家格や身分秩序に挑む純粋な改革者だった。最新の研究成果から、まったく新しい久秀像を描く決定版。
目次
はじめに―“戦国の梟雄”が戦ったものはなにか
第1章 三好長慶による登用
第2章 幕府秩序との葛藤
第3章 大和の領国化
第4章 幕府秩序との対決
第5章 足利義昭・織田信長との同盟
第6章 筒井順慶との対立
著者等紹介
天野忠幸[アマノタダユキ]
1976年兵庫県生まれ。大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程修了。博士(文学)。専門は日本中世史。天理大学文学部歴史文化学科准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Book & Travel
54
今回の大河ドラマで存在感を見せている梟雄・松永久秀の実像に迫った一冊。戦国好きだが、三好、松永に足利将軍が絡む畿内の複雑な情勢はどうも理解しきれない。専門的で膨大な数の人物が登場する本書でその流れが掴めたとは言えないが、久秀の生涯と意外な実像が判り面白かった。将軍殺害、主君殺害、大仏焼討ちといった「悪行」は何れも誤解と後世の創作。能力で三好長慶に引き立てられ、忠節を尽くした遣り手実務家の久秀は魅力的である。ただ当時の秩序を壊す程の地位に導いた高い能力は、秩序を好む人々にとっては忌むべきものだったのだろう。2020/03/31
Y2K☮
42
名著。将軍義輝を殺し、東大寺の大仏を焼き、主君を意のままに操り、最後は愛する平蜘蛛の釜を信長に渡すまいと共に爆死。これらの逸話は誤解か後世の虚構である。だが久秀が下剋上の権化であることを著者は否定しない。彼が戦った相手は足利将軍家が中心に居座る家格中心主義だった。身分や家柄ではなく卓越した能力(外交交渉が得意で、軍事や裁判もいける。有能を絵に描いたような実務的官僚)で這い上がる姿に敬服した。と同時に彼を見出し、大名同然の立場まで引き上げた主君三好長慶の器量も素晴らしい。結論。歴史認識は定期的に更新すべし。2020/08/31
Y2K☮
27
南北朝の動乱や山内&扇谷の上杉家の争いと同じく、敵と味方がコロコロ入れ替わる。秩序が乱れ、明日をも知れぬ世では目先の利益が全てなのか。本書と今村翔吾「じんかん」を原作にした大河ドラマを見たい。時の将軍・足利義輝を殺したとか東大寺の大仏を燃やしたとか、信長に刃向かって敗れ、平蜘蛛の釜を渡すことを拒んで爆死したなどの真相を広く知らしめてほしい。せめて将軍殺害は若い連中の(苦労を知らぬ二世代目にありがちな)合理主義に堕した暴走で、久秀は関与していないことだけでも。三好長慶こそ戦国期最初の天下人という認識も重要。2024/04/11
鯖
22
麒麟がくるでの爆弾正さんが爆死記念(期待)に。ウウウ。将軍暗殺、大仏焼き討ち、下剋上の権化と悪名高い松永さんが昨今の研究で、主家三好家に対して忠義を尽くしたこと、母と妻に愛情深く家族思いだったこと等が描かれる。それでも著者は彼が下剋上の権化たることを否定しない。三好家中での家格秩序、足利将軍を頂点とする武家の秩序、興福寺による大和の支配秩序といった既得権益に対し下剋上を試みる姿を丹念に描いた良書。2021/01/10
さとうしん
19
下剋上を体現した梟雄として知られる松永久秀だが、その実像は三好長慶・義継に忠節を尽くした人物であり、よく知られる奈良の大仏の焼き討ちや平蜘蛛の釜も事実とは異なるとする。久秀自身とともに、三好長慶と足利義輝の(肯定的あるいは否定的)再評価の書ともなっている。儒者の清原枝賢、キリシタンの内藤如安と高山飛騨守・右近父子、柳生宗厳など、意外な人物と主従関係を持っていたのが興味深い。2019/06/26