出版社内容情報
日中戦争から日米開戦に陸軍を引きずり込んだのが実は海軍であった事実を解明し、海軍善玉論の通説を実証的に覆す衝撃作。
はじめに
“知能犯”だった海軍の日中戦争
第1章 海軍が仕掛けた大山事件
1 盧溝橋事件と海軍の作戦始動
2 船津和平工作を破綻させた大山事件
3 謀略・大山事件の真相
4 「密命」の証明
5 第二次上海事変?──?日中戦争の全面化
第2章
内容説明
海軍=善玉の通説を覆す、真珠湾攻撃の知られざる事実。日中戦争を対米英戦の実戦演習ととらえ、南進と大規模な空爆を決行、さらなる泥沼化を進めたのは海軍だった。国の命運より組織的利益を優先させ、ついにはアジア太平洋戦争へ。東京裁判でつくり上げられた「海軍免責論」「海軍神話」に真っ向から挑む力作。
目次
第1章 海軍が仕掛けた大山事件
第2章 南京渡洋爆撃―「自滅のシナリオ」の始まり
第3章 海軍はなぜ大海軍主義への道を歩みはじめたのか
第4章 パナイ号事件―“真珠湾攻撃への序曲”
第5章 海軍の海南島占領と基地化―自覚なきアジア太平洋戦争への道
第6章 決意なきアジア太平洋戦争開戦への道
著者等紹介
笠原十九司[カサハラトクシ]
1944年、群馬県に生まれる。東京教育大学大学院修士課程文学研究科東洋史学専攻中退。都留文科大学名誉教授。学術博士(東京大学)。専門は中国近現代史、日中関係史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
45
最近は否定されたと考えられるが、戦後有力だった「陸軍悪玉海軍善玉説」に真っ向から立ち向かった労作。第2次上海事件から積極的に日中戦争拡大を主導し、予算の獲得を行うとともに重慶爆撃などの航空戦により、対アメリカ戦への練度を上げていったプロセスを詳細な資料に基づいて論証を試みている。海軍のセクショナリズムや戦後の戦犯による死刑回避工作などは納得のいく説明で、また山本五十六が1937年の日中戦拡大には一枚噛んでいたという指摘は極めて興味深い。ただ、全般に因果関係の説明に無理を感じる部分が散見された。2020/09/07
Toska
11
大所帯の陸軍が部内の統制で苦労したのに対し、海軍は「艦隊派」と「条約派」の相克を早くに乗り越え、一致団結して事に当たることができた。この団結力でもって押し進めたのが、無謀な戦争遂行と敗戦後の海軍免責工作であったというのが何とも言えない…また、「支那は一撃で崩壊」論が何度も裏切られているのに同じことを真珠湾でやろうとした山本五十六は、用兵面はともかく戦略的な見通しは全く評価できないのでは。2023/08/03
フンフン
4
第1次上海事件のきっかけとなった日本人僧侶殺害事件が陸軍側の謀略であったことはすでに明らかになっているが、第2次上海事件のきっかけとなった大山事件が海軍側の謀略であったという主張は本書が初めてである。決定的な証拠はないとはいえ、傍証を積み重ねて、ほぼ疑いのないところだろうと思える。2018/12/04
aeg55
3
「海軍あって国家なし」組織の存続をかけ、大日本帝国という国家を食い潰した海軍。敗戦後も海軍の存続をかけ、陸軍・東條英機に全ての責任を押し付け「海軍善玉論」を展開、今に至る。『日中戦争全史』にも一部書かれていたが、上海事変・大山事件から始まる海軍の陰謀とも言えるような、組織的犯罪行為ともいえよう。今現在の自民党や官僚、大企業の日本という国家を食い潰してゆく状況も同様のセクショナリズムに由来するのだろう。その下で人々が苦しみ死んでゆく様には気づきもしないし無頓着なのである。2022/10/20
カラコムル711
2
海軍の戦争責任を問う声は近年多くなったが、その決定版か。特に大山事件の陰謀から積極的な開戦方針は犯罪的であろう。米内、山本らも一枚噛んでいたとすればその責任は大きい。読み応えのある好著。2015/07/18