内容説明
作家専業となる以前、埼玉の屠畜場に勤めていた日々を綴る。「おめえみたいなヤツの来るところじゃねえ!」と先輩作業員に怒鳴られた入社初日から10年半。ひたすらナイフを研ぎ、牛の皮を剥くなかで見いだした、「働くこと」のおおいなる実感と悦び。仕事に打ち込むことと生きることの普遍的な関わりが、力強く伝わる自伝的エッセイ。平松洋子氏との文庫版オリジナル対談を収録。
目次
1 働くまで
2 屠殺場で働く
3 作業課の一日
4 作業課の面々
5 大宮市営と畜場の歴史と現在
6 様々な闘争
7 牛との別れ
8 そして屠殺はつづく
文庫版オリジナル対談 佐川光晴×平松洋子―働くことの意味、そして輝かしさ
著者等紹介
佐川光晴[サガワミツハル]
1965年東京都生まれ。北海道大学法学部卒業。出版社、屠畜場勤務を経て、2000年「生活の設計」(『虹を追いかける男』所収)で新潮新人賞を受賞しデビューする。『縮んだ愛』で野間文芸新人賞、『おれのおばさん』で坪田譲治文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のぶ
65
佐川光春さんが作家になる前、約10年間勤務した屠畜の体験を記した本。つまり、畜産場にいる牛や豚が食肉店に並ぶ間の工程の仕事。自分にはよく理解できないのだが、歴史的に差別的に扱われてきたようで、タブーに踏み込んだような部分があるようだ。確かに危険そうで典型的3Kの仕事なのかもしれないが、佐川さんはこの仕事に誇りと自信を持って取り組んできた事がよくわかる。食肉加工の部分も知らなかった知識を得ることができ、それほど厚い本ではないが読んで損はなかった。2016/09/08
なゆ
58
佐川さん御自身が作家になる前に働いていた屠畜場での10年余りの仕事を描いたノンフィクション。ここでは淡々と、牛の解体という仕事を究めようと、いかに無駄ない動きで綺麗に皮を剥ぐ、そのためにどうナイフを研ぐか、といった職人的な視点で語られる。とはいえ…すさまじい職場だ。1990年から2000年ごろまでの話なのだが(今はオンライン化されてるそう)、牛や豚が食肉になるということはこんなにもすさまじい仕事によるものだったのかと。それとは別に〝ガタ牛〟と呼ばれるホルスタインの牝牛の話にびっくり。私達は知らなすぎかも。2017/01/17
Shoji
50
著者が屠殺場で働いた10年を語っています。著者は北海道大学を卒業した学歴を持ち、妻とその両親は教師。職業の貴賎とか差別を語った内容かと思いきや、違っていました。働くこと、続けることについて語っています。「どんな職業であれ、就いた職業にどんな価値を見出すことができるのかということこそが、人としての力」だと。目からウロコが落ちました。2020/07/26
yumiha
46
大宮市営と畜場でタイトル通り牛を屠った11年間が綴られている。関西のと畜場を見学した後、1週間肉を食べることが出来なかった軟弱な私は、本書を読んで肝心なことを見逃していた、と思い知らされた。それは、仕事をするために大事な「技術」である。道具の手入れを含めて、先輩から教えられ経験を積んでやっと身に付くコツを間近に見る貴重なチャンスだったのに…。嫌がっても前へ進まざるをえない牛の目を見てしまい、眉間にズドン!を感じているのだ、と想像してしまったから、働く人の表情も手さばきも見逃してしまった。惜しい。2023/11/28
あじ
36
全身全霊で取り組んだ十年半の【屠殺】を、精致に反芻する現役作家のノンフィクション。外部からみた“いのち”の物語ではなく、職業的観点から“現場”を考察している。2019/09/06