出版社内容情報
中学教師の葉奈子は中二の夏、ネットの掲示板で声をかけてきた男のもとに身を寄せた。そこは、母親から構われずに育った葉奈子が救いを求めて逃げ込んだ場所だった。15年前の夏の記憶と、担任する女子生徒の無断外泊の背景が重なったとき、葉奈子の中でひとつの真実が立ち上がる。その真実を共有したのは、心に傷を負ったまま生きる同僚の中年男性教師だった――。SNSを用いた未成年者誘拐の、真の罪をあぶり出した長編小説。解説・寺地はるな
内容説明
中学教師の葉奈子は中二の夏、ネットの掲示板で声をかけてきた男のもとに身を寄せた。そこは、母親から構われずに育った葉奈子が救いを求めて逃げ込んだ場所だった。15年前の夏の記憶と、担任する女子生徒の無断外泊の背景が重なったとき、葉奈子の中でひとつの真実が立ち上がる。その真実を共有したのは、心に傷を負ったまま生きる同僚の中年男性教師だった―。SNSを用いた未成年者誘拐の、真の罪をあぶり出した長編小説。
著者等紹介
奥田亜希子[オクダアキコ]
1983年愛知県生まれ。愛知大学文学部哲学科卒業。2013年『左目に映る星』で第37回すばる文学賞を受賞しデビュー。22年『求めよ、さらば』で第2回「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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よっち
30
教え子の女子生徒が抱える秘密を知った中学教師の葉奈子。そこから自身の15年前の夏の記憶が重なってゆく希望と祈りの物語。母親から放置され、中二の夏にネットの掲示板で声をかけてきた男のもとに身を寄せた経験がある葉奈子。自分ほど悲惨な境遇ではなくとも、精神的に追い詰められた女子生徒の心理が痛いほどよく分かる彼女の複雑な想いがあって、心に傷を負ったまま生きる中年男性教師の再起も絡めながら、本当に大切なものは何か、そのためにどうするのがいいのか女子生徒に寄り添いながら模索してゆくその姿がなかなか印象的な物語でした。2025/06/26
akiᵕ̈
28
女子中生がネットで知り合った男の元へという後を絶たないニュース。未成年誘拐ともなってしまうこの様な事件の"真の罪"とはを投げかける。受け持つクラスの、家柄も良く優秀な女子生徒が家を出て数日帰って来ないを発端に担任の葉奈子が向き合う。葉奈子自身同じ年の頃、ネットで知り合った男の元へ逃げ込んで過ごした過去があり、その当時の事が思い起こされる。同僚の男性教師・溝渕と、互いの過去に起きた事に向き合いながら自身を見つめ直していく心の機微や関係性がとても良い。幼い心の逃げ道となる良いとまり木が身近にある事を願う。2025/05/15
エドワード
25
公立中学校の国語教師として勤務する田丸葉奈子は、傷ついたドバトの雛を拾い、多忙さ故に食生活も適当で、部屋にゴミがあふれている。若く一見未熟な教師だ。だがそれだけに、誰よりも生徒の心を推し量ることができる。担任する生徒・高根星来の無断外泊に、彼女は自身の中学時代―自堕落な母から逃れ、ネットで出会った男性と暮らした日々―を思い出す。危険な男たち、ネット社会の闇が身近にあることの怖さ。葉奈子を、星来を、しっかり支える40代の溝渕教師、保健室の岡江教師の姿も印象的だ。夏鳥たちのとまり木。少年少女の避難所の象徴だ。2025/06/21
しゃお
19
SNSによる未成年者誘拐というテーマを軸に描かれる希望の物語。子供の頃に「大丈夫」と言ってもらえたことが救いであり拠り所になっていたのは間違いないでしょうし、助けて欲しいと声をあげる事ができない人にとっては大事な言葉。でもその言葉の裏にあった真実は、主人公の葉奈子にとって向き合わないといけないもの。生徒が描いた鳥かごと鳥。それを見る側によっては受け取り方が違うというのはハッとさせられます。毛嫌いしていた同僚の教師である溝渕の本当の姿を知っていく様子や、秘密を抱えた生徒と向き合う姿も成実に感じられ良かった。2025/07/10
都忘れ
7
子供の頃から母親のネグレクトを受けるも、それを周囲に知られないように取り繕って教師になった葉奈子は教え子がネットで知り合った男性と危うい関係にあることを知る。彼女自身もかつて家に居場所がなくてネットで知り合った男の元で過ごした過去がある。同僚の溝渕と解決の方法を模索する中で封印してきた自身の過去とも向き合ってゆく。かつて男から言われた「大丈夫」という言葉の呪いを解き放つ過程のようにも取れ、幼き人たちの逃げ場所、止まり木たらんとする大人たちの矜持も感じ取れるいい作品だった。寺地はるなさんの解説もよかった。2025/06/05