出版社内容情報
とある町の路地を挟んで十軒の家が立ち並ぶ住宅地。そこに、女性受刑者が刑務所から脱走したとのニュースが入る。自治会長の提案で、住民は交代で見張りをはじめるが……。住宅地で暮らす人々それぞれの生活と心の中を描く長編小説。
内容説明
とある住宅地に、刑務所を脱獄した女性受刑者がこちらに向かっているというニュースが飛びこんでくる。路地をはさむ10軒の家の住人たちは、用心のため夜間に交代で見張りを始めることに。事件をきっかけに見えてくるそれぞれの家庭の事情と秘密。だが、新たなご近所づき合いは知らず知らず影響を与え、彼らの行動を変えていく。生きづらい世の中に希望を灯す、ささやかな傑作。
著者等紹介
津村記久子[ツムラキクコ]
1978年大阪府生まれ。2005年「マンイーター」(改題『君は永遠にそいつらより若い』)で太宰治賞を受賞してデビュー。08年『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、09年「ポトスライムの舟」で芥川賞、11年『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞、13年「給水塔と亀」で川端康成文学賞、16年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、17年『浮遊霊ブラジル』で紫式部文学賞、19年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞、20年、翻訳された「給水塔と亀」でPEN/ロバート・J・ダウ新人作家短編小説賞、23年『水車小屋のネネ』で谷崎潤一郎賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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エドワード
47
よく閑静な住宅地という。この作品の舞台となる10軒の家もその類だ。家族はひとつとして同じではない。文中に「この住宅地に漂う後ろ向きな充足感にうんざりする」という実にうまい表現がある。お互いの事情に踏み込まない。変化を好まない。そこへ刑務所から脱獄した女性が登場する。なんとある家の住人の同級生だ。彼女・日置昭子はなぜ逃げたのか?彼女によって生み出される、住宅地の人々の奇妙な一体感と高揚感、図らずも明らかになる家庭の秘密。緻密に構成され、終幕の収束まで、実に面白い。<つまらない>は<楽しい>に変わるかな。2024/05/20
のじ
45
脱獄犯が自分たちの住んでいる住宅地の方に逃げてくるかもしれない、というやや物騒な設定だけれど、お話は津村さんのあわく人と人とがつながって、影響しあっていくという感じのお話。こういう、うっすらとした人のつながりを描いていくのがほんとうに巧い作家さんだなあと思う。人と人とが出会うとっ協力し合ったりぶつかったり、嫌な人もいたりするけれど、出会いがなければ物語もうまれないよなあ、とか思ったり、人付き合いの苦手な自分を振り返って寂しく思ったりもするのでした。2024/10/19
カブ
42
つまらない住宅地なんて、そこら辺にある。それでもそこに住んでいる人それぞれにドラマがあるのだと思う。この作品は、まさにその通りなのだけど、何故か少し滑稽でドタバタな感じにクスッとしてしまう。住んでいる人たちの名前と家の場所が覚えられなくて、地図を何度も見てしまった。2024/05/31
ちえ
40
とても良かった。ありふれた10軒の家の配置図と住んでいる人達の説明のページを何度も振り返りながら読んだ。はじめはゴチャゴチャしていた登場人物が自分の中で形になって生き生きしてきて。この本に出てくるどの人も少しずつ私の中に居るように思う。木内昇さんの解説も嬉しい。なんの問題もない家族なんていないだろうし、外からは見えないよね。あることから交代に見張りをすることになる住民。〈これくらいの距離感だから良い〉というのが確かにあるよね。2024/06/09
Shun
40
タイトルが物語るような日本のどこにでも見られるであろう住宅街の、その一区画の家々の描き分けが凄い。全体から見ればつまらない住宅地かもしれないが、しかし各家庭の家族関係や細かな事情まで描かれていくと途端にドラマ性を帯びこれから起こる何かを期待してしまう。そしてテレビで報道された脱獄囚の話題がこの平和な住宅地に変化を引き起こし始める。いつ現れるか分からない逃亡犯を警戒し交流を密にし始めた住民たちは、それまで知らなかったお互いの事情に触れ物語は色づいていく。何の変哲もないところをテーマに持ってきたところは流石。2024/05/19