出版社内容情報
閉塞的な村から逃げだし、身寄りのない街で一人小説を書き続ける三島天は、ある日中学時代の友人のミナから連絡をもらう。中学の頃に書いた、大人になったお互いに向けての「手紙」を見つけたから、30才になった今開封しようというのだ――。他人との間で揺れる心と、誰しもの人生に宿るきらめきを描く、感動の成長物語。
内容説明
いつか田舎の村を出て上京し、自分の人生を切り拓くことを夢見る天。天の幼馴染で、彼女に特別な感情を抱く藤生。その藤生を見つめ続ける、東京出身で人気者のミナ。佐賀の村で同級生だった3人は、中学卒業前、大人になったそれぞれに宛てた手紙を書いて封をした。時は流れ、福岡でひとりで暮らす30歳の天のもとに、東京で結婚したミナから、あの時の手紙を開けて読もうと連絡が来て―。他者と自分を比べて揺れる心と、誰しもの人生に宿るきらめきを描いた、新しい一歩のための物語。
著者等紹介
寺地はるな[テラチハルナ]
1977年、佐賀県生まれ。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞し、デビュー。20年『夜が暗いとはかぎらない』で第33回山本周五郎賞候補。21年『水を縫う』で第42回吉川英治文学新人賞候補、同年同作で第9回河合隼雄物語賞を受賞。23年『川のほとりに立つ者は』で本屋大賞9位入賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さてさて
158
「どうしてわたしはあの子じゃないの」、と読者に問いかける書名を冠したこの作品。そこには、モヤモヤとした思いに囚われ続けてきた天の人生の一つの区切りを見る物語が描かれていました。『どうしてわたしは、あなたじゃないの』。そんな思いに囚われる中に中学時代の日々を生きていた主人公の天。佐賀県に伝わる『天衝舞浮立』という『神事芸能』が印象深く描かれるこの作品。視点の絶妙な移動によって、登場人物それぞれの心の内が鮮やかに浮かび上がるこの作品。他人を羨むという誰にでもある感情を鮮やかに描き出す寺地さんらしい作品でした。2024/11/15
そる
93
とても良かったです。主人公の天・ミナ・藤生。私は天が自分と重なってすごく身につまされてました。自分の感じたことを素直に表現したいだけなのに変わり者扱いされ親からも周囲からも認めてもらえず、東京に行けば認めてもらえるかもと思うこの痛い感じ。そしてそんな自分が疎ましいのに変えることもできずに苦しんであの子になりたいと思うこの感じ。改善の答えは出ないけどヒントならあった。「わたしが他の誰かになれないように、他の誰かもまたわたしにはなれない。残念だが、わたしはわたしを引き受けて生きていくしかなさそうだった。」2025/07/27
みこちゃん
67
今まで生きてきて、何度誰かを羨んだりしただろう。「ないものねだり」「隣の芝生は青い」きっと昔から他人を羨ましく思う人は一定数いて、でも羨んでばかりでは何も前に進まないことが分かっているから、こんな言葉が生まれたはず。相手の実情なんて深く交わらなければわからない。自分の人生、愛情深い両親に出会え、なりたかった仕事に就けて、尊重し合える相手に出会えて愛すべき子供達に出会えた。多くはないが楽しく笑い合える友人にも恵まれ、至って健康。これで十分だ。今、自分らしく笑って生きていられることに感謝。2025/06/27
せ~や
51
図書館本。昔から、「すごいな。なれないな」と想い続けてた親友がいる。大人になってそんな話になって、「せーやこそすごいよ。俺には出来ない」と親友から言われた。天、ミナ、藤生の3人それぞれから見た日常。自分は否応なく、このどうしようもない「自分」を生きていかなきゃいけない。でも、誰かの視点から見れば、そんな「自分」を「すごい」と言ってくれる人もいる。「どうしようもない自分」と「すごいと言われる自分」…どちらの「自分」にも「はじめまして」と握手して、手を取って、これからを生きていけたらいいなと思う。☆5.02025/03/20
エドワード
49
相変わらずの九州男児の肘差村の物語。中学校の同級生、小湊雛子、吉塚藤生、三島天(女子)の14歳の過去と30歳の現在が交差する。村の名士の家柄の雛子、かっこいい藤生、家と村の全てを嫌悪する天が、16年ぶりに再会する。雛子→藤生→天という好意の残酷さ。中学生の目に映る、矛盾だらけの田舎の嫌らしさ全開だ。父に殴られ、母に書きためたノートを捨てられ、天は村を出ることを誓う。雛子にも藤生にも悩みはつきない。14歳の時に三人で互いに書いた手紙を読むために故郷へ戻る天と雛子。大人になった三人の明るい未来を祈るよ。2024/04/01