出版社内容情報
東京の文教地区の町で出会った5人の母親。育児を通してしだいに心を許しあうが、いつしかその関係性は変容していた。あの子さえいなければ。私さえいなければ…。凄みある筆致であぶりだした、現代に生きる母親たちの深い孤独と痛み。衝撃の母子小説。
内容説明
東京の文教地区の町で出会った5人の母親。育児を通して心をかよわせるが、いつしかその関係性は変容していた。―あの人たちと離れればいい。なぜ私を置いてゆくの。そうだ、終わらせなきゃ。心の声は幾重にもせめぎ合い、それぞれが追いつめられてゆく。凄みある筆致で描きだした、現代に生きる母親たちの深い孤独と痛み。渾身の長編母子小説。
著者等紹介
角田光代[カクタミツヨ]
1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞、96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、98年『ぼくはきみのおにいさん』で坪田譲治文学賞、『キッドナップ・ツアー』で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2000年路傍の石文学賞、03年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞、07年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、11年『ツリーハウス』で伊藤整文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
737
まずタイトルが魅力的だ。語り出しは何人もが次々に現れて幾分とまどうが、一旦小説世界に入り込むと、もう一気に読み進めることになる。つまり、それだけ「語り」がうまいのだ。幼稚園児の長子を持つ3人の母親たちが主軸を成すが、そこに幾分かは年長の、あるいは年少の母親を絡ませることで物語に一層の膨らみを持たせている。小説の発想の元になったのは、やはり現実に起こった事件だろう。そして、それを影の核としながら物語は進行してゆく。いわゆる「お受験」の闇はかくまでも深くて暗いのかと思う。また、事実そうなのだろう。 2019/05/16
さてさて
403
子供たちを通じて知り合った五人の母親たちが”お受験”の波に翻弄されていく中に、お互いの子供のことを『何か深刻な病気にかかってしまえばいいのに』とさえ思うようになっていく様を見るこの作品。それは、『合格という文字を見たとき、今までの自分の人生に起きたどんなことよりも強い喜びを感じた』というゴールを目指して”お受験”のXデーへと突き進む母親たちの心の葛藤を描く物語でした。”お受験”の裏側に蠢く母親たちの深い森の中を彷徨うような孤独と愛憎を描いたこの作品。鬱屈とした気持ちがいつまでも尾を引く、そんな作品でした。2021/09/04
風眠
403
『森に眠る魚』とは、どういう魚だろう。本来生きる場所ではない森の中。目覚めたら苦しみ息絶えるのか。眠っている時にも目を閉じない魚の目に映るのは、認めたくない現実(森)か、それとも眠って見る夢(理想)なのか。風にざわめく森が急に静まる。そして物語に登場する母親たちの名前が「彼女は」となった時、すべての「彼女」は「私」となり「あなた」となった。鳥肌がたった。皆『森に眠る魚』なのだと思った。息苦しいのは何も母親だけではない。人はきっと誰でも森で目覚めた魚のように、現実に苦しみ、それでも生きようと、もがくのだ。2017/10/06
mmts(マミタス)
244
「ママ友」とは何か。一生涯の親友か。一時的な知り合いか。天国か。もしくは生き地獄か。幼稚園や小学校をお受験するべきか。忌憚なく、披瀝ある、気の置けない唯一無二の仲間になる予感を感じた。子どもの損得勘定ではなく自分自身のために作った親友だった。本音を話せる親友だったのに。小学校のお受験をきっかけに、いつしか戦争は始まった。メリット・デメリットで結ばれた関係性に変わっていく。長所だと褒め称えたところは欠点にしか見えない。次第に自分自身の保身しか考えない。お受験は自分自身のためか。子どものためか。2017/11/18
エドワード
231
ママ友はたいてい喧嘩別れするものだ。理由は明らか。自分の子供が一番可愛いから、そして子供を自分の分身と錯覚するからだ。生まれも育ちも夫の職業もバラバラで友達になれると思う方がおかしい。孤立を恐れないのが一番だとアドバイスしたい。とエラそうなことを言うが、渦中にいるとそれがわからないんだね。恐らく1960年代生まれと思われる五人の母親の物語。私も同世代。今尚お受験=私立=優秀=おハイソみたいな乱暴な図がまかりとおる日本の教育がこの先社会をどう変容するのか心配です。感想ならぬ教育放談になりました。スミマセン。2015/09/24