出版社内容情報
亀戸で複数の死傷者を出した無差別殺傷事件が発生。犯人の深瀬という男は逮捕後、「死刑になりたかった」と供述している。事件記者の安田賢太郎は週刊誌での連載のため、深瀬とかかわりのある人物にインタビューしていく。彼の人生を調べていくうちに、不思議と共感を覚えていく安田。しかし、安田の執筆した記事によって、深瀬の模倣犯が出現して…。社会との繋がりを失った人々の絶望と希望を紡ぎ出す、迫真のサスペンス。
内容説明
死傷者七名を出した無差別殺傷事件が発生。事件記者の安田は犯人の男について調べるうちに、執着ともいえるほどの興味を抱いていく。男は社会から見捨てられた被害者か、凶悪で卑劣な加害者か。やがて辿り着く、犯人の真の「動機」とは―この犯人は、何かが違う。直木賞候補の著者が放つ、慟哭の社会派サスペンス。
著者等紹介
岩井圭也[イワイケイヤ]
1987年生まれ、大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年『永遠についての証明』で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。23年『最後の鑑定人』で第76回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門候補、『完全なる白銀』で第36回山本周五郎賞候補。24年『楽園の犬』で第77回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門候補。同年『われは能楠』で第171回直木賞候補(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
237
今が旬の岩井 圭也、5作目です。本書は、事件記者無差別殺人社会派ミステリにて家族小説、大変読み応えがありました。今年のBEST20候補です。 https://www.futabasha.co.jp/book/978457524798500000002025/03/28
パトラッシュ
228
無差別殺人犯を取材する記者が、次第に犯人に取り込まれていく物語は珍しくない。今回も似た設定かと思いながら読み進めたが、途中から少しずつ展開が変わっていき、やがて予想もしなかった真相が現れる。救いようのない人の弱さ愚かさに否応なく巻き込まれ、酷い目に遭う家族の苦しさはやり切れない。心の弱い人が周囲の人生を破壊するのも殺人の一形態であり、そんな人は迷惑をかけず黙って死ねと作者は言いたいのかと感じてしまう。汽水域に漂うミズクラゲは善に向かうか悪に堕ちるかは僅かな違いだが、そんなことを心弱き人は考えもしないのだ。2025/03/15
hiace9000
163
女性記者目線で描く町田作品『月アマ』に対して、今作は男性記者目線の岩井作品。抜群のリーダビリティは読む手を止めさせない。いずれもフリーランスの記者が主人公。「書く」のは日々の糧を得るため…とはいえ、ジャーナリズムを信じ、事件の真実を求める矜持が自己と向き合う葛藤ぶつかり合い対峙していくサスペンス―ここまでは似ているが、描かんとする本質は別物。社会派色は今作がより強め。善悪のあわいで揺蕩う「人」「既存メディア」「SNS」「家族」。不可視である未来の不確実さと不確定さをタイトルに絡め、社会の今を照射する。2025/04/05
のぶ
154
力作だった。無差別殺傷事件が発生、犯人は死刑になりたいと供述。犯人の深瀬の人生を追う事件記者安田の物語。深瀬とかかわりあいのあった人たちにインタビューしていくうちに、安田の過去と現在が事件と交錯し、安田の心が動き始める。深瀬の人生を追ううちに安田自身が、夫にも父にもなりきれなかった原因のようなものも見え隠れし、切なくなった。安田も深瀬も本来救いの手を差し伸べられなければならない過去があった。自らの感情を無にしなければやっていけない時もあった。読んでいていろんな思いが巡る良くできたサスペンスだった。2025/03/03
いつでも母さん
152
「この社会は、果たしていい方向に向かっているんですかね」終盤のこの言葉は、常々私が感じていることだ。このジャーナリスト・安田の中に私自身の抱えてる闇をみて、とても苦しい読書時間だった。私の善悪の汽水域はグラグラうねっているのだ。どこで歯止めがかかるのか、誰かの顔や声や存在だけが「そっちじゃない!」と正気に戻してくれる。ジャーナリズムのあり方を問う本作、今回も岩井さんを面白く読んだ。2025/03/19
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