出版社内容情報
「あなたには、捕虜の処刑および民間人に対する虐待の容疑がかけられています」戦後まもなく、インパール作戦の日本人指揮官にかけられた嫌疑。偽りを述べたら殺すと言い放ち、腹を探るような問いを続ける英人大尉。北原はしだいに違和感を覚える。この尋問には別の目的があるのではないか? 戦場の「真実」を炙り出してゆく傑作長編。
内容説明
インパール作戦で敗軍収容任務についた北原は、終戦後まもなく戦争犯罪に関する呼び出しを受ける。捕虜の処刑と民間人に対する虐待容疑―。現れた語学将校の英人大尉は、偽りを述べたら殺すと言い放ち、腹を探るような問いを続ける。尋問を通して北原は、戦時中には分からなかった敵の事情を知り、友軍将兵の秘めたる心理を知り、やがて英人大尉がただの語学将校でないことを知る。
著者等紹介
古処誠二[コドコロセイジ]
1970年福岡県生まれ。2000年、メフィスト賞でデビュー。10年、第3回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞。17年『いくさの底』で第71回毎日出版文化賞、翌年、第71回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
124
インパール作戦で敗軍収容任務に就いていた見習士官が終戦後、現地徴用されたビルマ人少年の逃亡について英軍から捕虜虐待容疑で尋問される。戦場を振り返る主人公の回想で戦争犯罪がないのは明らかだが、なぜ最前線のジャングルで起こった小さな事件を英軍は執拗に知りたがるのか。濃霧を晴らすように腹を探り合う会話から、極限状態の戦地でしか起こり得ない驚くべき事実が浮かび上がる。戦争と政治の矛盾に翻弄されながら、人らしく生きようとする兵士の姿が苦しく切ない。単なる戦争小説ではない、追い詰められた人間の心理小説としても読める。2023/06/03
ケンイチミズバ
88
優秀な人材が突然抜けるって少なからぬ動揺がある。「敵前逃亡」という言葉も日常会話に出て来るし、業績や待遇の悪化で会社の雲行きが怪しくなり、それでも一致団結しようという時にいい知らせを手土産に一人競合社へ転職するなんてことも。命のやり取りがなされる場面ではしかし。敵と対峙する第一線。敗色濃い日本軍を見限り英印軍側へ川を渡ったビルマ人少年兵補の行動は、自らの意思か。地の利を得るため使役される農民を戦に巻き込む罪悪感から彼を後押しした者が部隊にいる。疑心暗鬼、部下への不審は見習仕官の判断を鈍らせ行動を誤らせる。2023/05/17
チャーリブ
49
初読みの作家。本作は悪名高きインパール作戦の中での極小的な戦闘をめぐる、いわば戦場ミステリーとでもいうべき作品。戦後、英国人語学将校から捕虜処刑、民間人虐待の容疑で尋問を受ける北原少尉の回想を中心としてストーリーは進んでいくのですが、最後に語学将校の真意が明らかになったときに、戦場での男たちの物語も明らかになります。それは、軍隊という「男の論理」が貫徹する場での信義の物語であって、その強力な磁場から逃れられる男性は稀でしょう。戦後の捕虜収容所に旧日本軍の階級組織を残した英国人はしたたかです。○2023/06/24
クリママ
47
俘虜収容所で、捕虜処刑、民間人虐待について尋問される。ビルマ、アラカン山地近く、深い森、川、インパール作戦の歩兵部隊の収容に就いた戦闘経験のない自動貨車大隊から抽出された見習士官。歩兵軍曹や部下の兵長に見くびられながらも、傷痍兵の収容を模索する。戦術、戦闘、英軍将校との心理戦、そして、徴用されたビルマ人の少年の脱走。読み進めれば、見習士官はなく兵長の物語。戦闘の場面は臨場感がありその経緯はよくわかるものの、もう少しスッキリした筋運びでもよかったのでは…。戦争では人間らしい心を失なわない人が死んでいくのか。2024/08/31
おかむら
30
古処さんの新作はまたもビルマ戦線ミステリー。インパール作戦敗退中の捕虜殺害と民間人虐待の疑いで戦後イギリスから尋問を受ける主人公。当時の作戦の経緯をふりかえりつつ尋問者の真意を探る。もう探りあってばかりのこの小説、部下や上官の思惑、敵のインド兵やイギリス士官の思惑、現地人の思惑と推理や疑心暗鬼の心理の読み合いが入り乱れ200ページほどなのに超濃密な読み心地。ほぼ湿度120%のジャングルで展開される物語ですが読後はとっても爽快感。古処さんカッコいい!2023/05/29