出版社内容情報
昭和三十四年(1959年)、甚夜の姿は「鳩の街」と呼ばれる花街にあった。戦後、赤線地帯として栄えた東京の下町で彼が探すのは、マガツメの娘と思われる花の名をした娼婦。だが、気づけば甚夜は、「鳩の街」自体の怪異に取り込まれていた――時代に取り残された“花街の姿”をしっとり描く昭和編。大人気和風ファンタジーシリーズ第十一巻!
内容説明
戦後、マガツメの娘を探して甚夜が迷い込んだのは、存在しないはずの花街だった。幻の街には断ち切れない未練を抱えた人々が集う。和風ファンタジーシリーズ第十一巻!
著者等紹介
中西モトオ[ナカニシモトオ]
WEBで発表していた小説シリーズ『鬼人幻燈抄』でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えみ
68
不条理と分かっていてもその身をもって受け止めなければいけない痛みもある…。世の狭間に落ちた、その先に見えたもの。広がる闇に揺らぐ微かな燈。刻の中に想いを残した彷徨う者たちの幻影を映し、おぼろげな光を放ってここ花街に寄り添い集う。伝えたい言葉はここにあった。シリーズ第11弾、未来に繋ぐ物語。時は移ろい昭和という時代に辿り着いた葛野甚夜。彼もまた過ぎ去る刻に慙愧を残してきた一人である。変わる事が当たり前の世の中で、鬼である彼もまた変わらないでいられるはずはない。積み重ねた心情が遂に彼に敗北を突き付ける。静謐。2022/10/23
mayu
66
シリーズ11作目。時代は昭和も後半。花の名前をもつ娼婦の噂を聞いて、花街「鳩の街」に行き着いた甚夜。そこは、未練や迷いを抱えた人たちが集う街だった。そんな展開になるのかと驚いたが、甚夜が甚夜のままだったからの迷いゆえ、そして、後になってみれば、この長い期間も必要な時間だったと思える。青葉の復讐、これには鬼でも敵わないだろう。ほたるの時を越えた想いも届き、たしかに恋だったと信じられる。遅れ過ぎた約束も果たされた。切ないが良かったのだろうと安堵を得られる結末。泡沫の夢の中を彷徨うような儚い雰囲気がまた素敵。2023/02/23
はにこ
60
昭和のノスタルジーを感じる作品だった。赤線が消滅したはずの昭和に残る鳩まち。その街には思いを残した人々が集う。幻の街だと思っていてもこんな街もあったのかしらと思わせる。退魔の末裔に出会い、こんなことになっていたとは。しかし、それで結ばれた縁もあり、それが平成の世の中にもつながっていく。昭和はたった1巻かと思ったけど現代への橋渡しとして重要な1巻だった。2023/10/23
よこたん
49
“人の知ることのできる範囲には限りがある。どれだけ聡明な人間でも、どんなに努力しても人は自分の見ているものしか見えていない。” どちらも、間違いでも嘘偽りでもない。視点が違うだけの話なのかもしれない。シリーズ第11巻。ふわふわと近づいてはまた遠のいて、掴みどころのない駆け引きがつづく。斬られる痛みというより、切なく痺れるような痛みに包まれる。いつの間にか時代は昭和にまで来ていて、これまで合間に挟まれていた他愛ないような逸話が、どんどん繋がり、ピースがはまっていく。先へ読み進みたいが、読み終わりたくない。2023/01/18
よっしー
34
怒涛の大正編が終わり、ついには昭和へ。マガツメが動き出すわけでもなく、でも鬼が出てこない訳でもなく…。今回は様々なすれ違いから起こった切ない恋物語という印象です。きっと、平成に入ったら一気に物語が加速するのだろうという伏線でもあったので、次を読むのが怖くも感じます。悠久の時を生きる鬼と、刹那の時を生きる人。この先もまた、出会いと別れの繰り返しになるのでしょうね…。2024/07/15