出版社内容情報
風が強く吹きつける日本海最北の離島、礼文島。昭和二十九年初夏、動物学者である土橋義明は単身、ここに赴任する。島の出身者から相次いで発見された「エキノコックス症」を解明するためだった。それは米粒ほどの寄生虫によって、腹が膨れて死に至る謎多き感染症。懸命に生きる島民を苛む病を撲滅すべく土橋は奮闘を続ける。だが、島外への更なる流行拡大を防ぐため、ある苦しい決断を迫られ……。
内容説明
風が強く吹きつける日本海最北の離島、礼文島。昭和29年初夏、動物学者である土橋義明は単身、ここに赴任する。島の出身者から相次いで発見された「エキノコックス症」を解明するためだった。それは米粒ほどの寄生虫によって、腹が膨れて死に至る謎多き感染症。懸命に生きる島民を苛む病を撲滅すべく、土橋は奮闘を続ける。だが、島外への更なる流行拡大を防ぐため、ある苦しい決断を迫られ…。
著者等紹介
河〓秋子[カワサキアキコ]
1979年北海道別海町生まれ。元羊飼い。2012年「東阪遺事」で第四六回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)を受賞。14年『颶風の王』で三浦綾子文学賞、16年に同作でJRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で第二一回大藪春彦賞、20年『土に贖う』で第三九回新田次郎文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
276
奄美大島でマングース駆除に携わる知人がいる。ハブの天敵とするため導入されたが、アマミノクロウサギに被害を与えたため絶滅作戦が進行中だ。本書で描かれる礼文島でのエキノコックス症感染動物排除も、人の都合で移された動物が人の都合で排除される点で同じか。ただ反対運動のないマングース駆除に対し、次郎の姉のように風評被害で苦しんだ人でも飼い犬飼い猫も手放さねばならなかった島民の心は傷つき、土橋ら担当者も「ひどいことをしている」と自覚しつつ遂行せねばならない。人命を救うため別の生物を殺す正義とは何なのか考えさせられる。2022/12/01
trazom
243
昭和29年、北海道立衛生研の動物学者が、単身、礼文島に派遣され、未知の感染症であるエキノコックス症と闘った物語。巻末に「本作品は史実を基にしたフィクションです」とあるが、ドキュメンタリータッチの筆の運びに引き込まれる。最後に苦渋の選択を命じられる主人公が、島の人たちに寄添い、剖検や殺処分で犠牲になる動物への慈しみを失わない姿に感激する。これほどの葛藤を経て礼文島から一掃したエキノコックス症だが、その戦いが今も全国で続いていると紹介されて作品は閉じる。大団円でない苦い後味が、感染症問題の難しさを実感させる。2022/12/06
のぶ
178
ノンフィクションノベルのような構成で最後まで読ませてくれる迫力のある作品だった。時代は昭和29年、主人公の土橋義明は北海道立衛生研究所に勤務する研究者。土橋は礼文島に派遣される。この島の出身者に相次いで発見されている「多房性エキノコックス症」の謎を解明するためだった。懸命に生きる島民を苛む病を撲滅すべく土橋は奮闘を続ける。ある時執念が実り発見にこぎつける。今でもエキノコックスは頻繁に耳にするが、こんな時代から研究が始まっていたことを初めて知った。寄生虫発見に対する執念が伝わって来る物語だった。2022/11/02
Nobu A
165
河﨑秋子著書3冊目。22年刊行。奇しくも先月訪れた礼文島が舞台。多包性エキノコックスの研究と撲滅に一生を捧げた柳原誠三博士(本書では土橋義明として登場)と島民らの物語。秀逸なタイトルといい、登場人物のそれぞれの想いが見事に描写された措辞。良書は感染症の歴史を学べるだけでないことが一目瞭然。「災厄や天災から押しつぶされて初めて人間はちっぽけな存在だと気付く」「不甲斐ないけど頑張ります」(pp.370-371)本症の撲滅には至ってないが、コロナ禍が収束したばかりの今、先人達のお陰で現在があるのを心に刻みたい。2024/06/23
モルク
165
エキノコックス根絶のため当時風土病のような扱いを受けていた礼文島で調査にあたった動物学者土橋を描く。エキノコックスの宿主となるネズミ、キツネ、犬、猫を捕獲し調査する。札幌からの調査団が来ると島の野生のみならず家飼の犬猫も供出させ全処分。土橋をはじめとする調査団、島民の葛藤。正しいこと、信念を持ちながら家族と思い慈しむ犬猫を…心身ともにきつかったであろう。そんな中で土橋と役場の山田や議員の大久保との交流は和ませる。礼文島でおさまったエキノコックスも現在は南下し戦いは続いている。読みごたえのある一冊。2023/01/29