出版社内容情報
とある町の、路地を挟んで十軒の家が立ち並ぶ住宅地。そこに、女性受刑者が刑務所から脱走したとのニュースが入る。自治会長の提案で、住民は交代で見張りをはじめるが……。住宅地で暮らす人間それぞれの生活と心の中を描く長編小説。
内容説明
その日、丸川亮太がいつものように中学の制服に着替えて朝食をとっていると、テレビから「二つ隣の県の刑務所から女性が脱走した」という、少し前から話題になっているニュースが流れた。その逃亡犯は亮太の家の方に向かっているらしいとのことで、亮太の父親が住宅地を見張ろうと言い出した。そんな丸川家の向かいにある矢島家。小学生の姉妹と祖母・母親の四人で暮らしているが母親は留守がちで、姉のみづきが妹の面倒をみていたのだった。そしてその隣の真下家では…。
著者等紹介
津村記久子[ツムラキクコ]
1978年大阪府生まれ。2005年「マンイーター」(改題『君は永遠にそいつらより若い』)で太宰治賞を受賞してデビュー。08年『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、09年「ポトスライムの舟」で芥川賞、11年『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞、13年「給水塔と亀」で川端康成文学賞、16年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、19年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞、20年、翻訳された「給水塔と亀」でPEN/ロバート・J・ダウ新人作家短編小説賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
644
読み友氏の厚意にて手に入った初読み作家さんの出世作(という認識で合ってる?)。登場人物の多いのは苦手、と常々感じていたのが、「これは大丈夫、めっちゃ面白い」と別の読み友氏の後押しもあってスラスラ読めた。几帳面な読者なら、各住民とその行動や思想をいちいちメモしながら読むところ、わたしはすべて「だいたい」で読んだが、それでもこういう形態は好きだなぁと思う。どんな人間にも「裏」や「他人に言えない部分」があるっていうこと(ミカママにもある・笑)終わり方もわたしの好み。読み友さんたち、ありがとう。2022/06/10
まちゃ
426
津村さん初読み。登場人物が多く、最初は誰が誰やら。次第に明らかになっていく登場人物たちの内面と家庭の事情。映像化しても面白そうな町内群像劇。とある町の路地に面した十軒の家々に暮らす悩みやあきらめ、絆の喪失を抱えた人々。生気のない淀んだ住宅地を変えたのは、刑務所から脱走した女性受刑者。近所出身の彼女が近づいているという出来事で生じた小さな波乱が淀んだ感情をかきまわす。そして変わっていく人々の関係。すべての問題が解決したわけではないが、それでもいい方向に向かっていると希望の持てるラストでした。2021/04/17
こーた
351
題名にもある、つまらない、をこれほどおもしろく描けることに驚嘆する。何気ない日常の景色があまりに巧くて、事件の核心に近づくほど退屈に思えてしまう、という顚倒さえ起きる。何もない住宅地だ。住民はみな倦んでいて、いずれはここから出ていきたいと考えている。そこへ逃亡犯が近づいてくる。事件だ。でもそんなことより洗濯物を取り込まなければならない。仕事へ、学校へ、病院へ行かなければならない。朝ごはんを食べないと。いいかげん起きよう。どんな事件があろうとも、その場所にはいろいろなひとが住んでいて、日常がある。逃亡犯を⇒2021/03/22
とろとろ
348
路地を挟んで10軒の家が立ち並ぶ住宅地。そこに受刑者が刑務所から脱走したとのニュースが入る。住民は何人かで交代で見張りをはじめる。見張りを変わるにつれ、それぞれの家の実情と事情が連載小咄のように延々と続いていく。最初の頁にある見取り図を見返しながら、どこの家か何度も往復して読んでいたので頁が前に進まなかった。それでも、途中から住人のそれぞれの悩みや苦労や思惑が判ってくると同時に、それが少しずつ明るい方向に向かって気持ちに変化が起こりはじめ最後は何となくよい感じて終わるっていうのが、垣谷美雨的で面白かった。2021/06/25
R
335
全然つまらないことない住宅地だった。傍目からは、何もない昔からの住宅地で、そこに住んでいる人たちの絶妙な人間関係を主軸にして、ある事件と、その過去とのつながりが描かれる物語。登場人物があれこれ出てくるのに、不思議と区別がついて、入り組んだ関係がなるほどと腑に落ちるのがすごい。平穏な毎日に潜む、犯罪の芽ともいうべき不平不満がリアルだった。誰でもが法を犯すかもしれないし、犯したものを助けるのかもしれない。2021/07/11