出版社内容情報
閉塞的な村から逃げだし、身寄りのない街で一人小説を書き続ける三島天は、ある日中学時代の友人のミナから連絡をもらう。中学の頃に書いた、大人になったお互いに向けての「手紙」を見つけたから、30才になった今開封しようというのだ――。他人との間で揺れる心と、誰しもの人生に宿るきらめきを描く、感動の成長物語。
内容説明
中学の同級生だった男女3人。憧れ、嫉妬、後悔…伝えられなかった言葉は、卒業前に書いた手紙に込められた。30歳の今、あの日の手紙を読むことになって―。今最注目の著者がただ一人のあなたへ贈る感動の物語。
著者等紹介
寺地はるな[テラチハルナ]
1977年佐賀県生まれ。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞し、同作でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ウッディ
369
閉鎖的な村も、古い考えの親の束縛も嫌な天は、優しい母がいて、可愛いく、東京から転校してきたミナのことが羨ましい。一方、好きになった藤生が想いを寄せる天の事が羨ましいミナ。それぞれの気持ちを伝えられないまま離れてしまった3人は、30歳になり、当時の気持ちを記して封印した手紙を開けるために再会する。都会への憧れ、友達への羨望など、思春期の葛藤を3人の視点から描いた物語。周りを気にせず、思ったことを口にする天が、口にできなかった思いが切なく、そんな天の事を好きになった藤生の気持ちがわかるような気がした。2021/04/28
fwhd8325
296
率直な感想は「美しい」です。人は美しいんだと思います。妬みや嫉み、それは醜い面もあるけれど、真っ直ぐに生きる、後悔は後悔として受け入れる、そんな姿は美しいのだと思います。寺地さんの作品には、すぅーっと背筋を伸ばさせてくれる力があるように感じます。この作品で、寺地さんの作品はすべて読むことができました。今年中になんとか読みたいと思っていたので、目標達成もうれしく思います。2020/12/24
ひめか*
281
どうしてこんなに上手くいかないんだろう。天もミナも藤生もコンプレックスを抱えて他人を羨ましく思っている。自分にはない他人の一面を見て自分を蔑んだり、見えている部分だけを見て羨んだり。私もそういう経験はあるけど、あまり意味のないことで勿体ないなと思った。人には人の悩みがあって、誰もが順風満帆なわけじゃないのに。自分の悩みも相手への想いも伝えなければわからない。時間はかかったけど、手紙で互いの真実を知れてよかった。自分を受け入れるしかないと悟ったのは、みんなが大人になったからなんだろうな。思春期の心は複雑だ。2021/06/21
のぶ
258
佐賀県の耳中市肘差という地区を舞台にした連作風の物語。どの話にも登場するのは、身寄りのない街で一人小説を書き続ける三島天、その幼なじみで彼女に特別な思いを抱く藤生、都会育ちで人気のあるミナの3人。読み始めは何を書きたいのか分からなかったが、読み進むうちに3人の関係が明らかになって行く。30才になり、久しく途絶えていた村の伝統行事の復活を機会に集まり、若い頃に書いた手紙を読もうと連絡があり、その手紙を開封する事になる。寺地さんの文章は押しつけがましさがなく、それぞれの個性が際立って出ていた。心に沁みる一冊。2021/01/03
いつでも母さん
249
『なにを言葉にして伝えるか。あるいは、伝えないか。わたしたちはいつもその選択を迫られる。そうしてたいていの場合、まちがったほうを選ぶ。』生きて来て今、大抵とはいかないが心当たりはあるなぁと。賢しら顔の私に「それも手軽な優越感に浸ってない?」と天なら言うだろうか。タイトルだけで多少の想像は出来る本作、寺地さんはこちらの心をくすぐるように痛いところを衝いてくる。15の頃の何とも言えない気持ちがひしひしと伝わる。30歳になって再会した3人が私には眩しい。正直で脆くて、強くて儚い。「3人ともこれからだよ!」2020/12/10