出版社内容情報
「父は、姿を消したのよ。私が九歳の夏に。それ以上のことを言わない、誰にも」。1964年オリンピック決定に沸く東京で、競技場近くに住む一人の男が失踪した。娘は自分の居場所と夢を守るため、偶然と幸運と犠牲を味方につけ生き抜いてゆくことを誓う。時代の空気感を濃密に取り込みながら描いた蠱惑の長編ミステリー!
内容説明
1964年のオリンピック決定に沸く東京で、競技場近くに住む一人の男が失踪した。娘は自分の居場所と未来を手に入れるため、逆境をバネに、幸運を味方に、生き抜いてゆく。緻密な伏線と謎が心を搦めとる長編ミステリー。
著者等紹介
森谷明子[モリヤアキコ]
1961年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2003年『千年の黙 異本源氏物語』で第13回鮎川哲也賞を受賞してデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いつでも母さん
174
「もはや戦後ではない」と言ったのは誰?戦後の復興の証のような『東京オリンピック』・・あの頃の喧騒の中、本作のような事があったとしても不思議ではないと思える今は2020年。震災復興オリンピックを謳って世の中はコロナウイルスに右往左往している。いつかまたそんな小説が産まれるのかも・・さて、涼子を知る人々の言葉が涼子を、事件を、時代を語る。そうさ、今となっては涼子の推測でしかないが多分真実なのだろう。過ぎた年月は還らない。抱えて生きて行け。森谷明子さん初読み。面白かった。2020/03/23
ちょろこ
142
読後感が良かった、一冊。1964年のオリンピック決定に沸く東京。その地で 一人の少女 涼子の父が姿を消した。父の失踪に絡む秘密、母の言葉、自分なりの確信を胸に秘めながら生き抜く決意をした涼子。ミステリアスな雰囲気、過去を纏う涼子という人物像が様々な視点から浮かびあがる過程は気がつけば惹き込まれるほどに。終盤一気にヴェールがとれたかのような姿は自分にとっては意外性と共にキラキラ輝く姿に…。そして同時に心に拡がる穏やかさとほんのり温かい読後感。良かった。小さな謎解きも楽しめる作品。2020/03/19
たっくん
127
1964年、東京オリンピックの年・・霞ヶ丘団地の近く、商店街曽根薬局の次男坊健太は、常盤書店で万引きの疑いをかけられるが、涼子お姉さんの証言と機転に助けられる。大京中学校に入学するが卒業を待たずに転出した、住んでいる場所も今はどうしているかわからない謎の少女、成績は優勝だが給食費も払えない貧しい家庭育ち、しかい最近「お嬢様」と呼ばれ高級車に乗っていた涼子。遼子が住んでいた長屋、取り壊された跡地から発見された黒焦げの遺体そして失踪した父親、深まる謎。健太の兄幸一は涼子の生い立ちを追う。ミステリアスで面白い。2020/07/07
fwhd8325
114
あのオリンピックから56年も経っていることをあらためて実感します。まさか、再び東京で開催され、まして、それを見ることができることになろうとは考えてもいませんでした。物語は主人公涼子を軸にした人間ドラマですが、随所にあの頃の熱気を感じさせてくれます。一気に時代に戻ったようなリアリティを感じます。2020/08/30
モルク
108
1964年の東京オリンピックの開催に沸く日本。高度成長期に向かい、恥部を壊しあるいは隠す。国立競技場近くの土地買収と商店街、そんな中で涼子のドラマが始まる。「もはや戦後ではない」時代に、貧困生活を送るミステリアスな美少女涼子が、各章で各人に語られることによってその像が赤裸々となる。ミステリーを解くがごとく、次々と難題を解決に導きもし、貧しい生活を送っていたにも関わらず、いつも毅然とした態度で不思議と上流階級の人や生活にも溶け込めるなど謎が多い涼子。その混沌とした時代と共に語られる涼子に興味津々。2020/06/21