出版社内容情報
天皇はなぜ「武士の時代」、中世を生き延びたのか。「日本史上最大の謎」といわれる疑問に斬新な光を当てた、中世皇室論の決定版!
【著者紹介】
皇學館大学教授
内容説明
天皇はなぜ「武士の時代」といわれる中世を生き延びたのか―その答えは「院政」にある。「院政」とはたんに、皇位をしりぞいたのちも前天皇が影響力を保ちつづけたといった単純な政治的事件ではない。それは律令体制が完全に崩壊した中世にあって、国家財政を支えた唯一の経済基盤である「荘園」を、「家産」として「領有」した天皇家の家長「治天の君」が、日本最大の実力者として国政を牛耳った統治システムだった。本書は、摂関家・将軍家・寺社勢力とも対抗し、「権門勢家」のひとつとしてたくましく時代を生き延びた中世皇室の姿を、実証的に明らかにした渾身の力作。
目次
序章 院政とは何か
第1章 日本の荘園はなぜわかりにくいのか
第2章 「権門体制論」とは何か
第3章 さまざまな権門
第4章 院政はなぜ続いたか
終章 中世はいつ始まったか
著者等紹介
岡野友彦[オカノトモヒコ]
1961年神奈川県生まれ。國學院大學文学部卒業、同大学院文学研究科日本史学専攻博士後期課程修了。博士(歴史学、國學院大學)。現在、皇學館大学文学部国史学科教授。専門は日本中世史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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みなみ
14
タイトルに院政とあるが荘園制にまつわる一冊といってもいい。後三条(白河)から始まる院政の経済的基盤になったのが莫大な荘園領からの収入であり、その荘園領は、女性皇族によって受け継がれてきた。後鳥羽上皇の承久の乱も莫大な荘園領の裏付けがあってこそ。院政の始まりよりも院政が継続する条件としての荘園制を強調しており、そこはわかりやすい。権門体制に関する学術論争については私は一般読者なので、筆者のおすすめどおりざっと読むにとどめました(苦笑)2023/01/21
chang_ume
14
中世日本を特徴づける院政について、上皇が王家領の所有者たる立場から権力行使する体制として理解し、また前提となる荘園制については「国土領有権の分割・継承」をその本質に理解して私的大土地所有とは異質とする。これで中世社会を全体理解できそうだと思う一方で、天皇の非荘園領主的性格を律令国家における公地公民制に求める点はやや超歴史的な飛躍と感じるし、王家領の主体である女院領はそもそもどうなんだと疑問も抱く。とはいえ戦後歴史学を踏まえた権門体制論の登場意義など、中世社会の構造理解に関して学説史把握に適した一冊です。2022/09/14
楽
9
読メ感想から。目からウロコ。第一章で学生時代からの誤った荘園観を払拭(「私的大土地所有」ではない)。第二章の「権門体制論」はややとっつきにくいかもしれないが、時代背景を踏まえた議論の流れを把握することは有益であり、第三章以降の理解を助ける。読み進めていくうちに、ずっと疑問に思っていた、なぜ天皇家が続いてきたか(武士によって打倒されなかったか)についても一つの答えが出たような気がする。最後に本郷和人の批判をしているが同意(テレビの小咄は面白いが)。中世の始まりは鎌倉幕府の成立よりもさかのぼる、院政期だろう。2017/02/26
蛭子戎
6
荘園の研究者が初心者向けに書いた本だが気を抜くと荘園の細かい話に入ってしまう。自分としてはその方が良いのだけど。2018/12/31
黒蜜
4
興味深い、ってか面白い。タイトルにある「院政」よりも荘園制をキーワードに日本史を見直すって感じ。なので、院政から鎌倉時代~南北朝期にまで話が及ぶ。歴史を支配者視点ではなく、お金の動き視点で見直す流れってのがあると思うのだが、本書もそういう感じ。まず荘園が大土地所有ではなく、国家への徴税権と捉え、院政のバックには膨大な荘園=収入があった。当時の日本は国の統治機関が未成熟なのでそれぞれの家の家宰機関との境が曖昧だった。その為、古代の国衙領が荘園に圧迫されていった…と言う理解で良いのかな?2018/07/08