出版社内容情報
周其仁氏は、中国の市場化改革路線を理論的に主導してきた高名な経済学者であるが、日本ではあまり知られていない。ロナルド・コースが嚆矢となった新制度派経済学に強い影響を受ける一方、地に足の着いた議論に大きな魅力がある。
本書は彼の代表的な論文の集成で、初の邦訳刊行である。
中国が劇的な経済成長を果たしたことに際し、農地や企業の所有権のあり方が変わることで、どのように経済は活性化したのか、人的資本理論も駆使し読み解き、そのダイナミズムを描き出す。
特に、第3章から第5章までで論じられる農村改革は、本書の白眉の一つである。かつて人民公社などの制度の下で営まれ、十分な生産を行うことができなかった集団農業が、農家ごとの請負生産に変革されていく過程が、農民からのボトムアップによる行動を起点とし、各レベルの政府や行政の間でなされた大量で複雑なインタラクションを経て実現したことなどが、精緻に読み応えある形で記述されている。
さらに、中国の医療における「医者に診てもらうのが難しい上、医療費が高い」という課題や、高度成長が終焉を迎える中、今後の中国の発展はどのように実現したらよいのかなど、さらなる改革のための提言も行う。
中国経済を中心に幅広く発信を行う梶谷懐氏(神戸大学大学院教授)を監訳に迎え、『現代経済学』(中公新書)等の著作を持つ瀧澤弘和氏(中央大学教授)も推薦する貴重な文献!
目次
第1章 現実の世界における経済学―コースの経済学的方法論およびその中国における実践
第2章 人的資本の財産権とその特徴
第3章 農村改革:経済システムの変遷を回顧する
第4章 農民、市場と制度改革―生産責任制後に農村が直面した深層における改革
第5章 農地の財産権と土地収用制度―都市化で求められる、重要で大規模な改革
第6章 市場における企業―人的資本と非人的資本との特別な契約
第7章 「コントロール権という報酬」と「企業家がコントロールする企業」―公有制企業における企業家の人的資本とその財産権に関する研究
第8章 公有制企業の性質
第9章 企業理論と中国の改革
第10章 競争、独占と規制―「反独占」政策の背景報告
第11章 病気になったら、誰が面倒を見てくれるのか?―新たな医療改革計画をめぐる議論
第12章 貨幣制度と経済成長
第13章 体制コストと中国経済
著者等紹介
周其仁[シュウキジン]
北京大学国家発展研究院朗潤上級教授、北京大学博雅上級教授。青年期に黒龍江省の寒村に下放、その後、1978年に中国人民大学経済学部に入学。卒業後、国務院農村発展研究センター発展研究所に勤務し、杜潤生氏の指導の下、農村の改革と発展に関する研究を行った。1989年5月からオックスフォード大学、コロラド大学、シカゴ大学で客員研究を行った後、1991年秋にカリフォルニア大学ロスアンジェルス校(UCLA)に入学し、博士号を取得。1996年春に北京大学中国経済研究センター(現・国家発展研究院)に教員として戻り、中国欧州国際商学院(CEIBS)浙江大学経済学部、復旦大学経済学部などに招かれて講義を行っている。主な研究分野は、財産権と契約、経済制度変化の理論、企業と市場組織・規制と規制改革など
梶谷懐[カジタニカイ]
1970年生まれ。神戸大学大学院経済学研究科教授。専門は現代中国経済。神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学)。博士課程在籍中に中国人民大学に留学(財政金融学院)。神戸学院大学経済学部准教授などを経て現職。著書に『現代中国の財政金融システム』(名古屋大学出版会、第29回大平正芳記念賞)など
劉春發[リュウシュンハツ]
1971年生まれ。上海立信会計金融学院外国語学部副教授。専門は開発経済学及び言語学。華東師範大学外国語学部修士課程終了(英語)、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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