内容説明
若くして亡くなった作家という印象が強いカフカだが、その人生においてはさまざまな、ときには意外な顔をもっていた。有能な公務員としての業績、家業とのかかわり、女性たちとの関係…。「カフカ・コレクション」の訳者が、カフカ自身の言葉、日記や手紙、また作品という「精神の証言」をよりどころに作家の内面に忍びこんだ、著者ならではのユニークな評伝。
目次
はじめに―カフカの肖像
砥石と鼻ひげ
ゲットーの構造
エミール古典語読本
友人ブロート
サラリーマンの誕生
小官吏の日常
目覚めの時
一夜の出会い
手紙の書き方
「変身」の誕生
二幕の婚約劇
もう一つの戦争
空白の時代
父への手紙
ミレナへの手紙
「城」の周辺
ヘブライ語学習
ベルリンに暮らし
ウィーン近郊・死
著者等紹介
池内紀[イケウチオサム]
1940年兵庫県姫路市生まれ。ドイツ文学者、エッセイスト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
市太郎
69
カフカの誕生日に。彼の生涯を歴史の流れとともに語る。やはり変わった男だったようだ。歴史は第一次大戦を経てやがてホロコーストへと至るユダヤ人にとって厳しい時代。しかしこの男はそんな時代の流れとは無関心に自分の執筆に情熱を注ぐ。女性に何百通も手紙を送っておきながらいざ会うとなったらもじもじして引き延ばすとかその人柄にも笑ってしまう。本人はいたって真面目なのだろうが。家族や周囲の人がその後、強制収容所で多く命を落とした事を考えるとその前に息を引き取ったのは幸せだったと言えるのだろうか。彼の風変わりな小説に乾杯。2014/07/03
harass
45
題名の通りの評伝。書き方が小説のようで読みだして面食らったがじきに慣れた。時代と地域と民族の複雑さが詳しく解説してあり、聞きかじったこの作家の環境などについて整理できた。カフカの生活などについてがある。あまり有能では無かったようだ…… チェコのユーモア作家ハシェクと同時代で同じ街に住んでいたことをはじめて知った。カフカのファンであればぜひ。個人的にこの訳者がまだ存命であることに驚く。2016/03/14
こうすけ
29
素晴しかったし泣けた。もはや文学的記号のような存在となったカフカ。その生涯を精密に検証していく。アマゾンのレビューで、著者の主観的推測ばかり!と怒っている人がいたが、周辺の歴史的事実から導かれるその推測の精度は高く、その点こそが本書の魅力。最期の手紙について、カフカらしい意味深い中断、と形容するのはしびれた。ナチスによって、多くの一次資料、証言者が喪われたことは許しがたく、今日のカフカ研究もその怒りが原動力になっている気がする。強いていえば、なぜカフカが文学の道に進んだのかがわからないのが消化不良だった。2025/01/24
風に吹かれて
17
1900年前後の時代がどのような時代であったのか、その中でユダヤ人がどのような生活を送ってきたのか、移りゆく時代の中で親子の意識の違いが生まれていたことなど、カフカが生きた時代のことがわかりやすく書かれている。そして、カフカの作品や日記、手紙などを読み込んだ著者が描いたカフカの心。ふたつの柱、つまりはカフカの「外」と「内」を描き、カフカという一人の人間を浮き彫りにした作品である。 カフカは、ある意味、不思議な作品を描いた人だと思うが、時代とその人の成りを知ると、作品理解も深まっていくように思う。 →2024/09/11
ぞしま
15
祖父(とその時代)からカフカの死まで。家族、友人、恋人、生きた時代、仕事、病気、そして残された大量の手紙を通して。カフカの小説にはまった人ならば一読の価値ある内容と思う。とても良かった。 割と人間くさい描写が目立つのだけど、「ぼくはきみを愛している(海が海底の小石を愛している、まさにそのように。ぼくの愛はきみに洗われる。きみに対して、ぼくはやはり天が投げ落とした小石だ)」 てミレナに宛てた手紙を読んで、あぁこの人はほんとうにものすごい天才なんだなて思った。 それだけで? もちろんそれだけじゃないのだけど…2019/01/12