出版社内容情報
精緻な筆致、圧倒的想像力で名匠が紡ぐ深遠な宇宙。表題作や「ミラクル・ポリッシュ」など奇想と魔法に満ちた8篇と独特の短篇小説論。
内容説明
魔法の鏡磨きが男と恋人の心にもたらす光と影を描く「ミラクル・ポリッシュ」。町に謎の自殺願望が流行した半年を記録する「私たちの町で生じた最近の混乱に関する報告」。一本の決定的本塁打がたどる驚異の軌跡を描く表題作など、多彩な奇想、緻密な筆で壮大かつ深遠な宇宙を描く8篇。著者自身による短篇小説論も収録(日本版のみ)。
著者等紹介
ミルハウザー,スティーヴン[ミルハウザー,スティーヴン] [Millhauser,Steven]
1943年、ニューヨーク生まれ。アメリカの作家。1972年『エドウィン・マルハウス』でデビュー。『マーティン・ドレスラーの夢』で1996年ピュリツァー賞を受賞。『私たち異者は』で2012年、優れた短篇集に与えられるThe Story Prizeを受賞。邦訳に『ナイフ投げ師』(1998年、表題作でO・ヘンリー賞を受賞)などがある
柴田元幸[シバタモトユキ]
翻訳家。アメリカ文学研究者。著書に、『生半可な學者』(白水Uブックス、講談社エッセイ賞受賞)、『アメリカン・ナルシス』(東京大学出版会、サントリー学芸賞受賞)などがある。文芸誌『MONKEY』(スイッチ・パブリッシング)責任編集(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
213
書店で気になり、図書館に予約して読みました。ピュリツァー賞作家、スティーヴン・ミルハウザー、初読です。本書は分厚い最新短編集の半分とのことです。オススメは、『私たちの町で生じた最近の混乱に関する報告』&『十三人の妻』です。 https://www.hakusuisha.co.jp/book/b512638.html 2020/09/02
散文の詞
149
短編には、それなりに落ちがついているものだと思いながら読み出したのだが、ことごとく裏切られた。 最初から、オチなんてありませんよって知ってて読むんだったとちょっと後悔した。 全体に盛り上がりに欠けるけど、内容よりも、手法というか、こういう書き方もあるのかとちょっと感心した。 8篇の短編の中で、最後に掲載されているのが「ホーム・ラン」。酒の席で誰かがしてたほら話って感じで、この順番は、翻訳者のユーモアか。 2022/10/11
のっち♬
128
2015年の短編集『Voices in the Night』より8篇。鏡がいつもと違う自分を映し出す『ミラクル・ポリッシュ』、認知症の母と対峙する『息子たちと母親たち』は奇妙な非現実感の中にリアルな願望が冷酷に表出される。『私たちの町で生じた』はあらゆる不快の排除が自殺願望を蔓延させる著者らしい形式とテーマ、力作『ガウダマ』への前振りとしても読める。『十三人の妻』はその人数にやや手を焼いていそう、『アルカディア』の捻りの方が余裕を感じる。表題作は短編にかける宇宙スケールの野心がダイレクトに反映されている。2022/12/22
Willie the Wildcat
88
何気ない日常生活から心底に積みあがる願望や欲、あるいは疑問。天使と悪魔が囁く。前者からは『ミラクル・ポリッシュ』。物理的にも、現実に向き合う覚悟と意思表示。代償も必然性と解釈。後者からは『13人の妻』。一見、意識・無意識に併せ持つ我欲だが、その実、様々な関係性を暗示している気がする。”集大成”が13番目、虚像であり理想。一方、直訳だとDevilすぎて腹に落ちなかったのが、『息子たちと母たち』。二度読んだが断念。何故表題が複数形なのか?”安堵”が、どうにも闇としか思えない。自分の読解力のなさを嘆くばかり也。2020/11/09
ヘラジカ
62
『私たち異者は』に続く短篇集。日常を歪ませる些細な亀裂に対する予感や気配を、まるで白昼夢かのように朧げだが、同時に不気味なほど精緻に描いている。ひび割れから覘く深遠な世界、またはカタストロフを垣間見るような作品たち。神秘的で不穏、胸をざわめかせる。前作品集よりも一層合う合わないが分かれるかもしれないが、柴田氏もあとがきで名前を挙げていたボルヘスが好きな人には堪らないだろう。まさしく短篇小説の"大きさ"が堪能できる一冊だった。変わり種の表題作と「アルカディア」がとても好き。ブッダの話はやや長すぎかな。2020/07/10