出版社内容情報
驚異の世界を緻密に描き、リアルを現出せしめる匠の技巧。表題作や「大気圏外空間からの侵入」ほか、さらに凄みを増した最新の7篇。
内容説明
通りすがりの男がいきなり平手打ちを食わせてくる事件が続発する「平手打ち」。いつのまにか町に現われ、急速に拡大していく大型店舗をめぐる「The Next Thing」。空から謎の物体が到来する「大気圏外空間からの侵入」。“異者”となった私と二人の女性との奇妙な交流を描く表題作など、精緻な筆が冴えわたる味わい深い7篇。
著者等紹介
ミルハウザー,スティーヴン[ミルハウザー,スティーヴン] [Millhauser,Steven]
1943年、ニューヨーク生まれ。アメリカの作家。1972年『エドウィン・マルハウス』でデビュー。『マーティン・ドレスラーの夢』で1996年ピュリツァー賞を受賞。『私たち異者は』で2012年、優れた短篇集に与えられるThe Story Prizeを受賞。邦訳に『ナイフ投げ師』(1998年、表題作でO・ヘンリー賞を受賞)などがある
柴田元幸[シバタモトユキ]
翻訳家。アメリカ文学研究者。主要著書、『生半可な學者』(白水Uブックス、講談社エッセイ賞受賞)、『アメリカ文学のレッスン』(講談社現代新書)、『アメリカン・ナルシス』(東京大学出版会、サントリー学芸賞受賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
127
日常に入り込む異物。少しなのだが、気にし出すと心を離れない。いや、もっと注意しなくてはいけないのかもしれない。7編のうち、3話目から7つめは、もっと注意するべきだったかもしれないこと。ほんの少しの違和感を持たせるものが、いずれは私たちの根本をすっかり変えてしまう存在になることにもっと早く気づいて手を打たなくては。最初の『平手打ち』に向かう集団心理は、不気味なのにとてもよく理解でき、『白い手袋』への好奇心の膨張にはとても同調した。なんと言っても『白い手袋』が一番。2019/10/13
seacalf
63
ああ、面白かった。何だろう、この心地好さは。とても奇妙な話なのにミルハウザーらしい細部にまでこだわった実に緻密な文章を読み進めていると、心地好さに似た感覚を覚えるのだ。読書が快楽のひとつであることを再確認させてくれるすごい作家。今回も通りすがりの人がいきなり平手打ちを食らわせる事件が続発する『平手打ち』から始まり、仲良しの女の子がある日突然白い手袋をしてきて、気になって仕方がなくなる『白い手袋』等ミルハウザーらしい奇妙な視点で奇妙な物語が語られる。表題作も読み応えあり。久しぶりのミルハウザーはやはり良い。2019/08/25
らぱん
54
偏執的なまでに精密な描写で馴染みのある日常が異化していくのだが、きっかけの出来事(些細な、驚愕的な)よりも、世界(≒周り)の影響で変わっていく人間(≒自分)の様子に独創性を感じた。現実世界自体がそもそも奇妙なものを孕んでおり、人間は無意識のうちに、それを受け入れた上で生きているのではないか、さらには人間そのものが奇妙ではないか、という問いがあるように思える。完成度の高い短編集だが7編の中で選ぶなら「平手打ち」の不気味さが好ましく「The next thing」も怖い話だった。かなり面白かった。2019/07/16
蘭奢待
52
図書館本。短編集。不思議な作風が多い。平手打ちの犯行が蔓延る町、うちゅうからの黄色い粉の侵略者、白い手袋をした手の秘密、郊外にできたショッピングアーケードtheNextThingの洗脳脅威、表題作は幽霊になった医者が異者となり他人の家に住みつく。どれもこれも幻想的な作品だが、落ちがわからない。Oヘンリーのような明確なオチがない。淡々と物語が進み、承、あるいは転で終わってしまう。何が言いたかったのかわからぬまま。読めてないということだ。2020/06/15
ヘラジカ
52
収録作品大半は、日常に些細な違和が紛れ込んでじわじわと広がりを見せるという割とよく見かける作風。しかし、その些細な異物はしっかりとした存在感を持っていて、侵食の過程も鮮やかなほど精確に描写しているため、恐怖よりも先にその実態と意味を見極めようという気持ちの方が先にくる。どれも素晴らしくクオリティが高いが、一押しは「The next thing」。"新しい社会"が構築されていく様はいやに現実味があり、最後まで冷静な主人公の語りも相まって心胆を寒からしめる。表題作もすごく良い。どちらも忘れがたい名短篇。2019/06/27
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