ヒトラーの裁判官フライスラー

オルトナー，ヘルムート【著】〈Ｏｒｔｎｅｒ，Ｈｅｌｍｕｔ〉/須藤 正美【訳】

白水社（2017/03発売）

• サイズ B6判／ページ数 372p／高さ 20cm
• 商品コード 9784560095393
• NDC分類 289.3
• Cコード C0022

出版社内容情報

白バラ抵抗運動被告ほか、死刑判決を多数下した人民法廷長官の生涯と、司法界の闇を暴く戦慄の書。死刑判決文・図版多数収録。独裁者に仕えた「血の裁判官」の実相に迫る！
　ローラント・フライスラーは、ナチス政権下で政治犯罪を扱う国家最高審「人民法廷」で長官を務め、無数の死刑判決（ほとんどが見せしめ裁判）を下した、悪名高き人物だ。本書は、新史料や司法関連文書に基づいて、独裁者に仕えた「血の裁判官」フライスラーの実相に迫り、ヒトラー体制下と戦後ドイツの司法界の闇を暴く、戦慄の書だ。
　歴史的な裁判として、ナチス抵抗運動の青年グループ「白バラ」の被告人たち、1944年7月20日の「ヒトラー暗殺未遂事件」の被告人たちに、死刑判決を下し、即時執行……という顛末を再現する。時には被告人のベルトやネクタイを取り上げ、容赦なく貶め、感情的な大声で罵倒したというフライスラーは、1945年2月、人民法廷の中庭を横切っていた際、ベルリン空襲の爆弾の破片が直撃し、急死する。
　本書は、ナチス・ドイツにおいて司法の独立性が奪われ、政治の道具になっていく経緯とその恐るべき帰結を鮮烈に描き出し、現代にも問いかける意味は重い。著者はドイツの高名なジャーナリスト。著者特別寄稿「記憶と忘却について　日本語版読者の皆さまへ」と、「死刑判決文」・史料多数を収録。

ヘルムート・オルトナー［オルトナー］
1950年、ドイツ・ゲンドルフ生まれ、ジャーナリスト、編集者、著述家。オッフェンバハ・アム・マイン造形大学に進学。ダルムシュタット専門単科大学で社会教育学と犯罪学を専攻。1978年以降、多数の著作を刊行。それらは複数の版を重ね、10を超える言語に翻訳されている。「ヒトラー暗殺未遂犯」ゲオルク・エルザーの評伝は、特に大きな反響を呼んだ。

須藤　正美［ストウ マサミ］
1956年生まれ。東京都立大学（現在の首都大学東京）人文学部博士課程単位取得満期退学。ドイツ文学、特にカフカをはじめとするユダヤ系文学者の作品、ドイツ人とユダヤ人の関係史などを研究。早稲田大学（2010年まで）、中央大学、明治大学、慶應大学（現在に至る）などで講師を務める傍ら、文芸・実務翻訳に従事。主な訳書に『カフカのプラハ』（水声社）、『名作オペラシリーズ「トリスタンとイゾルデ」』（音楽之友社）他がある。

内容説明

独裁者に仕えた「血の裁判官」の実相に迫る！ナチス抵抗運動の青年グループ「白バラ」の被告人をはじめ、無数の死刑判決を下した「人民法廷」長官の生涯、ヒトラー体制下と戦後ドイツの司法界の闇を暴く、戦慄の書。著者特別寄稿「記憶と忘却について日本語版読者の皆さまへ」、「死刑判決文」・図版・史料多数収録。

目次

プロローグ　ある死刑判決―またはローラント・フライスラー第二のキャリア
第１章　祝典
第２章　カッセル生まれの弁護士
第３章　一つの民族、一つの帝国、一人の総統、そして一つの司法
第４章　国務長官兼著述家
第５章　裏切り者と民族の敵
第６章　政治の一兵卒
第７章　民族の名において
第８章　七月二〇日
第９章　終焉
第１０章　ゼロ時間に非ず

著者等紹介

オルトナー，ヘルムート［オルトナー，ヘルムート］ ［Ｏｒｔｎｅｒ，Ｈｅｌｍｕｔ］
１９５０年、ドイツ・ゲンドルフ生まれ、ジャーナリスト、編集者、著述家。オッフェンバハ・アム・マイン造形大学に進学。ダルムシュタット専門単科大学で社会教育学と犯罪学を専攻。１９７８年以降、多数の著作を刊行

須藤正美［ストウマサミ］
１９５６年生まれ。東京都立大学（現在の首都大学東京）人文学部博士課程単位取得満期退学。ドイツ文学、特にカフカをはじめとするユダヤ系文学者の作品、ドイツ人とユダヤ人の関係史などを研究。早稲田大学（２０１０年まで）、中央大学、明治大学、慶應大学などで講師を務める傍ら、文芸・実務翻訳に従事（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー

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[Shintaro]

アーレントと並んでナチスウォッチャー必読の書だった。しかもアーレントよりわかりやすい。ナチスがいかに司法を掌握したか、そして人民法廷長官としてフライスラーの果たした役割。やはり全権委任法(授権法)がポイントだった。ユダヤ人比率が高かった弁護士会からユダヤ人を追放したのも効いた。そして一連の戦時特別法と人民法廷を一見合法的に見えるように制定した。これが戦後、大量のナチ裁判官の無罪復職につながった。我々は法に従っただけだと。それは特高警察や裁判官など日本においても同様ではなかったか。緊急事態条項に騙されるな。

2018/01/19

[ぐうぐう]

ナチス政権下、人民法廷の裁判官として、数々の死刑判決を下したローランド・フライスラーの評伝。国家反逆罪とは言うものの、フライスラーが死刑を言い渡した判例の中には、他愛のないジョークのレベルで発せられた政権批判が理由であるものも多く含まれており、その程度の発言で極刑が決まってしまう事態は、おぞましさを通り越し、まるでコントのようなシュールさに満ちている。フライスラーは狂信的なナチ信奉者ではあるが、国家を守るための法の番人として、生真面目に、粛々と職務を全うした側面もある。（つづく）

2018/10/29

[JINKO＠灯れ松明の火]

【図書館】映画「白バラの祈り ゾフィー・ショル最後の日々」を観た時に、めっちゃ印象に残った裁判官がいた。それは裁判ではなく、ただ高圧的に威圧的に被告を一方的に甲高い声で罵ると言う。それがフライスラーだった。盲目的にヒトラーを崇拝し、ナチズムを信奉した「法衣を纏った殺人鬼」大変興味深く読みました。こいつこそ、ニュルンベルク裁判で裁かれて欲しかった！

2017/09/24

[紫草]

裁判官というような教養のある人が、なぜナチス狂信者になるのかが知りたくて読みました。第一次世界大戦末期に革命により帝国崩壊、共和国となりそして敗戦。まだ民主主義が根づいていない国で、国を強く栄えさせるために全体主義国家を求めたということは理解できた。(もちろんナチスを肯定しているのではありません。)筆者の言いたいことは、日本の読者に向けた｢記憶と忘却について｣という序文につきると思います。忘れてはいけない。我がこととして考えていかなければいけない。ドイツだけの、ナチスだけの話ではなく。

2017/07/19

[駄目男]

フライスラーの信念の凄さは最後の最後まで、譲歩ということを知らない国家主義者で、ヒトラー政権の終焉が目前に迫っても一切の妥協をしなかった点ではなかろうか。 あらゆる政敵の殲滅、どれほど恐ろしい結末が待ち受けていようともお構いなしで最後まで突き進もうと思っていたようだ。 つまりは第一次大戦で敗北した教訓「背後からの一突き」を徹底的に弾圧することに身命を懸けていたようにも映る。 因みに戦後の西ドイツ・アデナウアー政権では多くのナチ司法関係者が復職した事実、これをどう受け止めたらいいのか、大いなる矛盾を感じる

2017/05/30