出版社内容情報
破滅は、冷たく、ゆるやかに進行する
著者は二十世紀のドイツを代表する反ナチズムのユダヤ人作家の一人。一九三三年、ナチスによって国籍を?奪され、亡命したフランスでヴィシー政権によって収容所に抑留された。本書は、四〇年五月に南仏レ・ミル収容所に拘留されてからニーム近郊で解放されるまでの過酷な体験の一部始終を綴った記録である。
フランスがドイツに宣戦布告した一九三九年九月以降、フランス国内のドイツ人、ユダヤ人、無国籍者は「敵性外国人」とされ、フォイヒトヴァンガーも煉瓦工場跡に収容され労働を課された。早朝に起床すると、仮設便所の前には長蛇の列。やがて羞恥心は麻痺し、排泄も野放図になる。「われわれは排泄物の中で生きている」という言葉に象徴される劣悪な待遇や凄惨な体験を時系列的に報告するドキュメントの体裁をとりながら、捕虜仲間とともにすべてを受け入れ、甘受せざるをえないほどに切迫した事態を描き出す。
著者が見出す「フランスの悪魔」とは直接的な暴力でなく、他者の苦悩への冷淡さや官僚的無気力に潜む悪意であり、ヴィシー政権は、この悪魔性ゆえにナチスと結託したと断じる。人間性の脆さを鋭利に描き、戦争と時代の暗部に迫る第一級の史料。
【目次】
フランスの悪魔―ある体験記 9
レ・ミルの?瓦 11
第一夜 68
バイヨンヌの船舶 86
第二夜 111
ニームのテント 158
第三夜 222
マルセイユの庭園 241
日記 一九四〇年 243
レ・ミル 一九四〇年 245
幽霊列車 259
ニーム収容所 263
マルセイユ 277
手紙 301
逃避行 マルタ・フォイヒトヴァンガー 313
補遺 329
訳者あとがき 333
原注
内容説明
思考の欠落、他人の苦悩に対する冷淡さ、品性の劣化が破滅的な結末を招いた。20世紀のドイツを代表するユダヤ人作家が、南仏レ・ミル収容所での抑留体験を克明に記録した第一級の史料。
目次
フランスの悪魔―ある体験記(レ・ミルの煉瓦;第一夜;バイヨンヌの船舶;第二夜;ニームのテント;第三夜;マルセイユの庭園)
日記 一九四〇年(レ・ミル 一九四〇年;幽霊列車;ニーム収容所;マルセイユ)
手紙
逃避行 マルタ・フォイヒトヴァンガー
著者等紹介
フォイヒトヴァンガー,リオン[フォイヒトヴァンガー,リオン] [Feuchtwanger,Lion]
1884年、ユダヤ人実業家の長男としてミュンヘンに生まれる。20世紀のドイツを代表する反ナチズムのユダヤ人作家の一人で、歴史小説、戯曲、エッセイを多数執筆した。1925年、『ユダヤ人ジュース』が累計200万部のベストセラーとなり、世界的な評価を受ける。1933年、ナチスによって国籍を剥奪され、亡命した南仏ではヴィシー政権によって収容所に抑留される。1940年、アメリカに亡命し、ドイツ人作家、芸術家が結集したカリフォルニアのパシフィック・パリセーズ、別名「ニュー・ワイマル」を活動の拠点とする。アメリカでは反政府活動、反ファシズムの作品の執筆を続けた廉でマッカーシーの赤狩りの対象となり、無国籍のままドイツに帰還することなく、1958年12月21日、ロサンジェルスで死去
浅野洋[アサノヒロシ]
1950年、千葉県に生まれる。慶應義塾大学独文科卒業。日本翻訳家協会常務理事、埼玉女子短期大学名誉教授。オーストリア世紀末文学、ナチス時代の亡命文学を専攻。主な著訳書として、J・ゼルケ『ヨーロッパはプラハで死んだ』(新水社、日本翻訳出版文化賞受賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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