内容説明
旅とギリシア、芸術と美少年を愛したローマ五賢帝の一人ハドリアヌス。命の終焉で語られるその稀有な生涯―。
著者等紹介
ユルスナール,マルグリット[ユルスナール,マルグリット][Yourcenar,Marguerite]
1903年ベルギー、ブリュッセルで、フランス貴族の末裔である父とベルギー名門出身の母との間に生まれる。本名マルグリット・ド・クレイヤンクール。幼くして母を失い、博識な父の指導のもと、もっぱら個人教授によって深い古典の素養を身につける。1951年に『ハドリアヌス帝の回想』で、内外の批評家の絶賛をうけフェミナ賞受賞。女性初のアカデミー・フランセーズ会員。1987年死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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まふ
134
五賢帝の一人とされるハドリアヌスの独白の形で綴られる。先輩トラヤヌス帝に引き立てられてその衣鉢を継ぐが、厳しいけれど温和、高潔な遊び人、遅疑逡巡する韋駄天、豪快な臆病者、誠実な詐欺師、残忍な仁君などと言われて捉えどころのない暴君でもあったようだ。トラヤヌス帝の領土膨張政策から内政重視型への転換を行い視察遠征を好んだ。英国のハドリアヌス長城は有名である。美少年アンティノウスを寵愛し、ギリシャ文化を愛好した。全般を通じて硬質の語り口は格調と気品に満ちて賢帝にふさわしく、上質の世界へと誘ってくれた。G1000。2023/12/16
KAZOO
132
ユルスナールの名著で、須賀敦子さんの本にも最初に引用されている箇所があったりして、気になっていたので読んで見ました。ギボンの本よりはわかりやすく、塩野さんのよりはかなり文学的な感じがしました。私にとっては素晴らしい本だと思いました。時折、コミックの「プリニウス」を思い浮かべたりしながら読みました。日本語訳も素晴らしいと思います。2018/09/01
マエダ
94
少し背伸びした本を常に読みたいと思っている。本書の文章の美しさは言わずもがなだが、内容を全て理解できたかと問われると疑問だが。年を経てもう一度読みたいと思える一冊。2017/05/04
ケロリーヌ@ベルばら同盟
62
『自然は裏切り、運命はうつろい、神はすべてを高所よりながめたもう』悲愴な数語を指輪の石に刻んだ万能の巨人が語る、数多の季節に亘る様々の出来事や旅行がぎっしりと書き込まれた記憶のフレスコ画である自らの生涯。最大の版図に達したローマ帝国を継承し、植民地を堅実に経営し、官僚制度・法整備を進め、学術と建築の保護者であったハドリアヌス帝の、碑文や公文書には記されるべくもない至高の愛と思索。ユルスナ―ルの≪交感の魔術≫の極み。一人の偉人の内部に入り込み、同化し、その声で形を得た、饒舌にして静謐、比類なく美しき墓碑銘。2020/01/06
たま
56
1951年発表のユルスナールの小説。5賢帝の3人目ハドリアヌスが1人称で20年の治政を語る。数多くの1人称小説を読んできたが、弱さを抱えた語り手が多いのに対し、ハドリアヌスの知力、体力、精神力(そして権力)はすごいの一語。広大な領土を絶えず旅し、「蛮」族と戦い和平をまとめ、法制度を整え、壁、道路、都市を築く。諸宗教に通じ芸術家と交わり美青年を愛し彼の自死を悼む。死ぬ前に後継者を二人決め彼らも賢帝となる。抽象度が高く密度の濃い文体で書かれた歴史書であり内省録である。読み手の私もいつしか目線が高くなっていた。2022/08/21