出版社内容情報
「言葉をもって空気をふるわす」
チェルヌイシェフスキーは、専制体制下のロシアにおいて生涯をかけて、社会体制の変革と民衆=人民の解放に向けた言論活動をおこなった。ここに集められた諸論攷の多くは1861年の農奴解放令に関連するものである。自由主義的な貴族や知識人からは「大改革」と称讃されたが、そこにはいくつか問題があった。農奴解放によって「農奴」は人格的自由を得たものの、同時に、分与された土地に対して膨大な額の支払い義務を負わされたことや、農村共同体の位置づけなどである。「土地つき解放」を求める彼の争点はここにあった。この「リベラルな」改革は真の意味での「農奴解放」とはいえず、圧倒的に不十分だったのだ。つまり、彼の闘争の矛先は、専制体制のみならず、不徹底なリベラリズムにも向けられている。
これらの論攷は、検閲を避けるために意図的に晦渋な文章で紡がれることもあいまって、ひじょうにわかりづらい。だが、チェルヌイシェフスキーの活動が、ナロードニキ運動やレーニンに影響を与えるように、現在のわれわれがそこから汲み取るべきは、偽りの「解放」を?まされることなく、真の解放を求め、言論活動によってそれを具現化せんとするそのあくなき魂である。
内容説明
「向こう岸から」ではなく―19世紀半ばのロシア帝国のなかで、ツァーリズムに、リベラリズムに開き直る貴族らに、言論で戦いを挑んだチェルヌイシェフスキーの不屈の精神がいま甦る。マルクスを唸らせ、そのロシア観に修正を迫った論攷を含む全七篇の言葉のつぶて。多和田葉子氏の書き下ろしエッセイ「検閲官と迷路」を収録。
目次
チェルヌイシェフスキーの略伝と著作
ロシア文学のゴーゴリ時代概観
スラヴ派と共同体の問題
ランデヴーにおけるロシア人
共同体的所有に反対する哲学的偏見の批判
ローマ滅亡の原因について
地主領農民へ、同情者からの挨拶
宛名のない手紙
検閲官と迷路(多和田葉子)
著者等紹介
チェルヌイシェフスキー,ニコライ[チェルヌイシェフスキー,ニコライ] [Чернышевский,Никопай]
1828‐1889。帝政ロシアの思想家、政治・社会評論家、経済学者、作家。サラトフの聖職者の家庭の生まれ。より民主的な社会の建設のためツァーリズム打倒を掲げ、生涯にわたり急進的な言論活動を展開した。その反体制的な言論活動により1862年7月に逮捕、ペトロパヴロフスク要塞監獄に収監される。シベリア流刑の判決が下るまでの一年半のあいだに書き上げられたのが、社会主義的な理念に基づく協同組合論や女性解放論で当時のロシア社会でも大きな反響を呼んだ小説『何をなすべきか』であった
多和田栄治[タワダエイジ]
1933年、岐阜県生まれ。1956年、早稲田大学第二文学部露文専修を卒業。出版社、英米大学出版局代理店に勤務。1974年、ドイツ書専門のエルベ書店を設立(2023年8月閉店)。1988年から2024年まで、東京多摩公団住宅自治会協議会会長、全国公団自治協代表幹事を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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