出版社内容情報
中国出身の米国作家による第一短篇集。暴力と存在の孤独という主題が前作『断絶』より前景化され、観察と物語の凄みが際立つ八篇収録。
内容説明
“全米批評家協会賞”受賞作品。前作の長篇『断絶』が好評の中国出身の米国作家による、不可思議な語り口と冷徹な観察眼が冴える8篇を収録。現代アメリカの心象風景を巧みに切り取る短篇集。
著者等紹介
藤井光[フジイヒカル]
1980年大阪生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。東京大学文学部・人文社会系研究科現代文芸論研究室准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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こーた
139
日常に潜む暴力。DV、女性への、そしてルーツへの偏見と差別、マイクロアグレッション。ひとつひとつは軽い痛みでも、ずっと引き摺る。ふとした瞬間に思い出され、引き摺られてしまう。軽い?そう思うのは僕が男性だからだ。何年経っても消えないのなら、それは決して軽くない。おや?あれ?奇妙な違和が積み重なって、ズレていく感覚が愉しい。落とした「オレンジ」が見つからない、「オフィスアワー」に訪ねる研究室の穴の先には残像が潜んでいる。異界は日常のすぐ隣にある。タイトルは映画の用語だそうだが、どの短篇も映画の手法や理論を⇒2025/03/06
たま
70
イーユン・リー、ハ・ジンさんを読み、中国系アメリカ人作家3人目。リン・マーさんは前の二人よりも若く、83年生まれ、生まれは中国だが幼児期に親と渡米した第2世代らしい。たぶんそれゆえイーユン・リーやハ・ジンが描いた家族のしがらみは薄く、しがらみが薄い分、人々の孤独が深い印象を受けた。ちょっと不思議な、幻想小説風の作風だが、孤独のリアルを読み手に伝える手段としての幻想の用い方が巧みで感心する。唯一〈リアル〉な「北京ダック」は何重もの語りの仕掛けで幻惑された。2022年全米批評家協会賞受賞。2025/05/15
天の川
53
短編集。中国系アメリカ人女性作家による現実と非現実が交錯する世界に、不安定な気持ちを掻き立てられる。中国系の人々が出会わざるを得ない差別がそこここに顔をのぞかせる。中国人家庭の頑なさも。特に好きだった2編、『オフィスアワー』は母校に助教として戻り、恩師の研究室を使うことになった彼女の前に現れた元教授が教える幻想空間、『北京ダック』は、創作科の授業での他人の体験を作品とすることについての話し合いからスライドしていく、ベビーシッターをしている家で居直り強盗に遭った母の体験がズシリときた。2025/04/07
藤月はな(灯れ松明の火)
46
「ロサンゼルス」は一緒に住んでいる百人の元カレや言っている事がドル記号で変換される投資家の夫という非現実感に酔いそうになる。だが、これすらも小説を際立たせている。何故なら過剰な非現実感で装飾していかないと、この物語の後に残るは、現実への寂寥ばかりなのだから。「オレンジ」のDVの元カレ、アダムとその彼女たちとの振るった/振るわれた暴力への記憶や意識の差異はまさに現実にごろごろ、転がっている。「北京ダック」はシュールだけど、現実にあったら凄く、嫌だ。そして「G」はカポーティーの「ミリアム」を彷彿とさせるホラー2025/04/24
ヘラジカ
42
自分にとって記憶に残るという以上に良い短篇とは何か。読んでいる間、恐ろしいまでの「揺らぎ」が確かな実感としてそこにあり、読了後にも自らが立っている地面が、世界が不安定になるような感覚に襲われる、そんな作品だ。まだそういった小説には出会ったことがない人は、是非ともこの短篇集を試してみて欲しい。決して万人が理解や共感を得られる物語ではないだろう。しかし、この作家の小説には、間違いなく読み手の視野や意識を拡張させる力が秘められている。リン・マーが一貫して描いている「隔たり」と無縁でいられる人間はいないはずだ。2025/02/28
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