出版社内容情報
内戦での先住民大虐殺の「報告書」を編集中、心を病み、忍び寄る恐怖の影に怯える男。エル・サルバドルの鬼才の衝撃作!
【著者紹介】
1957年ホンジュラス生まれ。国籍はエル・サルバドル。新聞記者としてエル・サルバドル内戦などを取材した。翻訳に『崩壊』(寺尾隆吉訳、現代企画室、2009)がある。ボラーニョとともに英訳が続々と刊行され、『サンフランシスコ・クロニクル』が2008年度の海外文学のベスト50に選出しているなど、21世紀初頭のラテンアメリカ文学を牽引する最重要作家。
内容説明
「おれの精神は正常ではない、と書かれた文章にわたしは黄色いマーカーで線を引き、手帳に書き写しさえした」。主人公の男は、ある国家の軍隊による、先住民大虐殺の「報告書」を作成するため、千枚を越える原稿の校閲の仕事を請け負った。冒頭から異様な緊張感を孕んで、先住民に対する惨い虐殺や拷問の様子、生き残った者の悲痛な証言が、男の独白によって、延々とつづけられる。何かに取りつかれた男の正気と妄想が、次第に境界を失う。ときおりセックスを楽しむこともあるが、心はいっこうに晴れない。やむをえず郊外に逃げ出しても、心身に棲みついてしまった恐怖、不信、猜疑心に苛まれ、先住民の血を吐くような証言が反復される。やがて、男の目には「虐殺者の影」が見え隠れし、身の危険を感じるようになる…。
著者等紹介
モヤ,オラシオ・カステジャーノス[モヤ,オラシオカステジャーノス][Moya,Horacio Castellanos]
1957年、エル・サルバドル人の父とホンジュラス人の母との間にホンジュラスの首都テグシガルパで生まれる。エル・サルバドル大学で文学を専攻するが、大学への軍隊介入により、カナダ、コスタリカに亡命し、メキシコでジャーナリズムの仕事に従事。内戦により亡命したエル・サルバドルの知識人たちを物語る処女長篇『ディアスポラ』(88年)で、セントロアメリカ大学が授与する国民小説賞を受賞。91年、エル・サルバドルへ帰国するが、小説『吐き気―サン・サルバドルのトーマス・ベルンハルト』(97年)が反国家的だと脅迫され、再び亡命を余儀なくされる。11年、アイオワ市に移り、アイオワ大学の教授をつとめている
細野豊[ホソノユタカ]
1936年神奈川県横浜市生まれ。東京外国語大学スペイン語科卒業。通算十七年余りラテンアメリカ諸国(メキシコ、ボリビア、ブラジル)に滞在。日本文藝家協会、日本詩人クラブ、日本現代詩人会、日本ペンクラブ会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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