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内容説明
ポーランドとチェコの国境地帯にある小さな町、ノヴァ・ルダ。そこに移り住んだ語り手は、隣人たちとの交際を通じて、その地方の来歴に触れる。しばしば形而上的な空想にふけりながら、語り手が綴る日々の覚書、回想、夢、会話、占い、その地に伝わる聖人伝、宇宙天体論、料理のレシピの数々…。豊かな五感と詩情をもって、歴史に翻弄されてきた土地の記憶を幻視する。現代ポーランド文学の旗手による傑作長編。
著者等紹介
トカルチュク,オルガ[トカルチュク,オルガ][Tokarczuk,Olga]
1962年、ポーランド西部、ドイツ国境に程近いルブシュ県スレスフに生まれる。ワルシャワ大学で心理学を専攻、卒業後はセラピストとして研鑽を積む。93年、Podr´oz ludzi Ksiegi(『本の人びとの旅』)でデビュー、ポーランド出版協会新人賞受賞。2007年に出版されたBieguni(『逃亡者』)で、2008年度ニケ賞を受賞。エッセイストとしても高い評価を得ている。ヴロツワフ在住
小椋彩[オグラヒカル]
北海道大学文学部卒業。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了(文学博士)。2001年‐2002年ワルシャワ大学東洋学研究所日本学科講師。現在、日本大学ほか非常勤講師。専門はロシア文学、ポーランド文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
82
隣人で不思議で魅力的なマルガとの交流。夢日記。暴力的な父に反抗して神の花嫁となった髭が生えた聖女の逸話。その逸話を遺した女性になりたくも情交では女性の姿のままで男であった修道士の話。そして圧倒的なキュートで舌なめずりしたくなるほどな毒キノコレシピ(笑)そんな断章が幾つも重なり、浮かぶは日々の営みとそれを営む人々の様子、そして淡いなす生と死。最も淡いを際立たせているのが食べられ、死に至らしめ、人々を粘菌というネットワークで繋ぎうるキノコなんだろう。夕暮れになる前の光景が浮かぶような作品でした。2016/03/13
紅はこべ
75
大元の語り手はポーランドのノヴァ・ルダという町の近くの山村に住む女性だが、近所の不思議な老女マルタ、友人の銀行員クリシャ等の挿話を始め、伝説、噂話、料理のレシピ、ピェトノという町の成立など、長短様々な断片を織り合わせたタペストリー如き小説。人が現実に住む昼の家と心の奥底にある夜の家双方が描かれるが、夜寄りかな。夢や闇の世界を支配するキノコが象徴的。狼男の話も典型。この物語の聖女って『善良な町長の物語』のあ の聖女?幽明定かならぬ世界をさまようような、薄暮の中を手探りで歩いているような、不思議な小説。2011/02/07
Vakira
69
オグラ訳のオルガ。ずいぶん前にリクエストした本がやっと自分の番に。はて?なんでリクエストしたのだろう。初心を忘却している。オルガさん流に解釈すれば僕は地球防衛軍の隊員で極秘任務を遂行しており、任務完了につき記憶を抜かれてしまったのだ。この本をリクエストした記憶と一緒に。そうだった。2018年のノーベル文学賞受賞だったので読んでみたくなったのだ。主人公の語り、匂います。どこかで嗅いだ匂い。ありえないありえさ。そうだ!リアルマジック。G・マルケスの匂い。家とは2種類存在する。現実世界の家と自分の内面にある家。2020/01/16
ゆう
55
国境に近いポーランドの山村に移り住んだ私。本書では彼女を軸に、町の人々の暮らし、インターネットで語られる夢、戦争の記憶、聖人伝承、キノコ料理のレシピなどなど、ひとつひとつ短い挿話で物語が紡がれていく。そして物語がぼんやりとひとつの土地、その土地が持った時間や空間を浮かび上がらせる。ひとつの土地の過去と今の積み重ねであるのだが、これは歴史ではない。ここあるのは歴史ではなくて、集合的な記憶だ。この本を読んでいる間、私はなぜかずっと幸福だった。私は歴史でなく、記憶でその土地と繋がっていた。夢のような本書を通して2019/12/15
よこたん
52
“人は風景のなかに、自分自身のなかの、刹那に移りゆく一瞬を見ている。どこを見ようと、人はいつも自分自身を見ている。それだけ。” ポーランドとドイツの国境あたりの人々の暮らし。幾枚もの葉が、幾重にも層になったり、吹き飛ばされたり引っかかったり、複雑に形成されたかのような、翻弄された歴史。ままならない不遇ななかにあっても、意外なまでの逞しさも併せ持つ。自らの心のままに進む者に、死は静かに寄り添い、やがて包み込む。時折登場する野生のキノコのレシピには、スメタナをたっぷりと。毒キノコ?ふぅん?それが何か?2020/01/23