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内容説明
哀愁とユーモアに満ちた、「アイリッシュ・バラッド」の味わい。珠玉の8編を収めた傑作短篇集。
著者等紹介
キーガン,クレア[キーガン,クレア][Keegan,Claire]
1968年、アイルランド、ウィックロー県の農家に生まれる。高校卒業後、アメリカに渡り、ニューオーリンズのロヨラ大学で学ぶ。92年、母国に戻り、ウェールズ大学大学院、ダブリンのトリニティ・カレッジで学ぶ。短篇集Antarctica(1999)でデビューし、『ロサンゼルス・タイムズ』の年間最優秀図書に選ばれ、優れたアイルランド文学に授与されるウィリアム・トレヴァー賞、ルーニー賞など多数受賞、第二短篇集となる『青い野を歩く』(2007)も、オリーブ・クック賞、フランシス・マクマナス賞を受賞した
岩本正恵[イワモトマサエ]
1964年生まれ。東京外国語大学英米語学科卒。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アン
113
アイルランドの荒涼としながらも静謐な情景が浮かぶ短編集。糸が切れた真珠のネックレスを拾う神父の生き様を描いた表題作。思わぬ悲劇とすれ違う家族の想い「森番の娘」。富豪の継父と母、心が通わない青年の憂鬱と人生の分岐点「波打ち際で」など8編を収録。ままならない人生のひと齣を研ぎ澄まされた文章で掬い上げ、孤独とやるせ無さ、愛のもつれ、秘められた願望などが伝わり悲哀が漂いますが、失意の中に仄かな救いも…。表題作が特に印象的。どんな人生を選択しても、その先を歩み続けようと微かな光を見い出す強さがあることを。 2022/03/06
buchipanda3
111
アイルランドの現代作家による短篇集。その語りに惹かれた。読み終えてももっと読みたいという気持ちに駆られた。決して心地よい物語ではない。描かれるのは古い風潮が残る田舎で暮らす人々。登場人物たちは断ち切れない思いや失望、孤独に苛まれる。人生には思うだけで実行できないことは山のようにあるのだ。その心残りがもたらす深く沈みこんだ憂いの気持ちが読み手に絡みつく。人ってやつは厄介なもの。それでもその無垢に模索する滑稽さこそが人間そのもの。その姿を自然の美と頑強さを添えながら愛おしさを持って著者は描き切っていたと思う。2022/11/12
紅はこべ
80
アイルランド文学というと、ジョイスのイメージが強いせいか、前衛的という感じがあったが、この短編集は静謐で端整だった。女は動き、男は留まる。「森番の娘」「長く苦しい死」が特に好き。ハインリヒ・ベルの家って実在するの?女性作家にしては珍しくスカトロ趣味っぽいところが…。これはジョイスの伝統かな。 2016/06/04
巨峰
67
きれいなタイトルや静謐な表紙の写真に比べると、冒頭の『別れの贈り物』からヒリヒリとした不穏な空気やら緊迫感のある短編がそろっている。内容のわかるものもあれば、なんだったんだろう?と思うものもある。お気に入りになった『ヴァレンタインズ』の岩本正恵さんの訳なわけで訳に問題があるというより、その土地の風習や風物に根差した物事が重要なカギであり、私にはなかなか理解するのが難しいのかもしれないな。例えばこの国の神父は妻帯が許されるのか?とか。そもそも現代の話ですよね?これ。『森番の娘』『青い野を歩く』が良かった2016/09/18
seacalf
57
アイルランドの女流作家の手による何とも不思議な短編集。どれもこれもやるせない話ばかりなのに、つきまとうのは哀しみではなく心を穏やかにさせる静謐な空気。まるでアイルランドという独特の土地から立ち上る霊気を纏っているかのようだ。その土地の自然と根付いた人々を描くのが非常に上手い。普段なら憂いを帯びた話は苦手なので敬遠しがちになるのだが、最後までページをめくる手が止まらなかった。ダブリン、イニシュモア島、モハーの断崖、かつて訪れた土地の記憶が蘇る。かの国の神秘的な雰囲気が匂い立ってくるような読書時間だった。2018/08/07