内容説明
女は、もはや意識もなくただ横たわるだけの夫に、初めて愛おしさを覚える。そして、自分の哀しみ、疼き、悦びを語って聞かせる。男は、ただ黙ってそれを聞き、時に、何も見ていないその目が、妻の裏切りを目撃する。密室で繰り広げられる、ある夫婦の愛憎劇。アフガン亡命作家による“ゴンクール賞”受賞作。
著者等紹介
ラヒーミー,アティーク[ラヒーミー,アティーク][Rahimi,Atiq]
1962年アフガニスタン・カブール生まれの映像作家・小説家。フランス系の高校に学ぶ。紛争の最中、1984年フランスに亡命。ソルボンヌ大学で映画学の博士号を取得する。その後数本のドキュメンタリー作品を撮るが、1996年にタリバーンが政権を掌握すると、故国の現状を描く欲求に駆られ、1999年に小説第一作『灰と土』(インスクリプト)をダリー語(アフガニスタンで使われるペルシア語)で発表。翌年フランス語に翻訳されるとその名を広く知られるようになる
関口涼子[セキグチリョウコ]
翻訳家、詩人1970年東京生まれ、パリ在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
122
休日に読むには重たすぎる内容だった。イスラム圏のどこかで植物人間になった夫に話しかける妻の過酷な人生は、読者の胸を激しく揺さぶる。イスラム圏の女性たちはこれほどつらい人生を送っているのだろうか。女性を産む性としか見なさない男性の傲慢さが、戦争や暴力に満ちたこの世の悲惨さの元凶なのかもしれない。イスラムの男性たちに傷つけられながら、優しさを失わない主人公は、女性の強靱さ、気高さを表現していると思う。女性から見たらおかしなところがあるのかもしれないが、男性の作家がこれを書いた意味は大きい。2014/07/20
nobi
99
屋外では銃撃音と礼拝の呼びかけが交錯し、戦車の砲撃で壁が崩れ、時に敵味方いずれかの兵士が押し入ってくる。“悲しみを聴く石”と化してしまった夫を介抱する妻という屋内からの視点は、そんな状況が日常化していることをより身近に感じさせる。そういう形でしか中東の男女間格差に依る束縛から逃れられないという女の不幸。その失望感と無意識下の開放感が女の語りと行為をエスカレートさせる。演劇の台本のようなせりふとト書きは、その生々しさを抽象化して、どこまでも観客でいる自分を意識している感じではあったけれど、忘れられない舞台。2019/04/06
紅はこべ
85
作者が男性なんだよね。恐らくイスラム教徒なんだろうけど、女性の苦悩をここまで活写できるとは。認識を新たにさせられた。そういう人だから、亡命せざるを得なかったんだろうか。2016/07/14
藤月はな(灯れ松明の火)
68
戦場となった街の家の一室。信念に従ったが為に意識不明になった夫へ自分を抑圧してきた恨み、一人で戦場となった社会に子供を守りながら立ち向かわなければならない不安、覚醒への懇願をぶちまける妻。その言動が神への不敬に当たるのではないかと慄く姿は一神教の信仰者ならではだろうか。そして明かされた秘密は「女」の私からすると「矢張りか」と思うもので。自身の破滅にも繋がる奇跡(「忍耐の石」が砕けた)が起きた時、どうして彼女は逃げ出さなかったのか。映画『アンチ・クライスト』の澄み切った彼女の最後の眼差しを重ねながら読了。2022/10/08
どんぐり
67
アフガン亡命作家によるフランスのゴンクール賞を受賞した作品。味方の兵隊と喧嘩をして撃たれ植物状態となった夫を介護する女。一日数珠を99周、神の99の異名のうちの一つ「アル・カッハール。アル・カッハール」と唱え、アッラーに祈りを捧げる。女は夫の口からチューブを引き抜き、日課となった点滴を施し目薬を指す。そして、物言わぬ夫に語りかける。「あなたは存在するけれど動かない。あなたは聞くけれど話さない。あなたは見てるけれど目には見えない」忍耐の石(サンゲ・サブール)。石に話したいだけ話すと、石はその人の話を聞き、2014/08/18
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