内容説明
三十歳で死ぬことが宿命づけられている男たち三代の物語。激動のイタリア現代史を、ある家族の叙事詩として描く。作家の小説第一作、待望の邦訳なる。
著者等紹介
タブッキ,アントニオ[タブッキ,アントニオ][Tabucchi,Antonio]
1943年イタリアのピサ生まれ。小説家であると同時にポルトガル文学の研究者であり、20世紀最高の詩人のひとりフェルナンド・ペソアの紹介者として知られている
村松真理子[ムラマツマリコ]
1963年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程、ボローニャ大学大学院博士課程修了。文学博士。イタリア文学専攻。現在、東京大学大学院総合文化研究科准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
69
実にひさしぶりのイタリア文学。タブッキは、初めて。「読書メーター」の感想と表紙の写真に魅かれて読んでみた。物語は、なんとエピローグから始まる。1つ1つの章も短かく、映画のカットのように構成されている。トスカーナの西部マレンマにある村を主要な舞台にしながら、いわばイタリアの激動の時代が描かれるのだが、性急さや熱っぽさはなく、淡々と語られるところに特質があるだろう。ただ、そんな作品だけに、どの登場人物にも感情移入しにくく、通常の小説とは違った読後感だった。2012/06/28
紅はこべ
66
いきなり主人公のガリバルドの死から始まる。それから遡って、主人公の祖父、父、双子の伯父達、伯母の短く熱い人生が端的に語られ、その運命を受け継ぐガリバルドと運命の恋人とも言えるアズマーラとの長い恋愛が、革命児ガリバルドの人生を通したファシズムとの闘いと共に語られる。タブッキは名前は知っていたけど、読むのは初めて。これは好みだった。個人の運命は家族や共同体の運命とは切り離せない。処女作でこの完成度。素晴らしい。2016/07/02
長谷川透
26
この作品をタブッキ版『百年の孤独』と呼んでも構わないとは思うが、両者の作品は似て非なるものである。一族の系譜を物語の中心に据えている点は同じであるが、この点以外に共通項はあまりないのではないか。ガルシア=マルケスは奇想天外なエピソードを豊饒で官能的なタッチで描き、読者の想像力を掻きたてるのに対して、タブッキの書き方はより視覚的であり映像的である。時系列が断裁され無秩序に配列された『イタリア広場』は、時間の経過が物語を動かすのではなく、断裁されたパズルの完成の後に、大きな景色が読者の目の前に広がる。2012/11/09
夏
23
タブッキの処女作。タブッキにとってこの作品は、個人としても、作家としても、タブッキの根っこであるらしい。この小説、ではなく寓話あるいは物語は、30歳で死ぬことが宿命づけられている一家を、三代にわたってイタリアの現代史とともに描いている。1800年代中盤から始まる一家の物語は、イタリア現代史に詳しくないわたしから見たら少し難しい部分もあったが、歴史小説としてではなく、この一家の物語として十分に楽しめた。広場で始まって広場で終わるこの物語には、イタリア広場という題名がとてもふさわしく思う。★★★★★2023/10/31
ぞしま
13
タブッキ処女作。一読してマルケスの『百年の孤独』が頭にかすむ。じゃあ一緒なのか?というともちろんそんなことは無い。イメージのぶつ切り、置いてけぼり感、仄かに隠れた優しさ、など私の好きなタブッキ作品の萌芽を確かに感じる。それは、その後に続くタブッキ作品の射程の広さを予見しているように見え、同時に、これもまた彼の文筆活動の試行錯誤の一つなのだと思えて、ますますタブッキが好きになる。自身を捨象することにより、ますます作家としてのタブッキは欲望される、彼がペソアを愛したように読者はタブッキを愛する。2016/01/26