内容説明
カフカの小説については、たえず囁かれてきた。はたしてそれは、カフカが書いたとおりなのか。誰かがあとから、そっと手を入れたのではないか。そうした疑念を払拭すべく、カフカ・コレクションは、カフカの手稿そのものをテキストとして作られている。「ノート2」は、手稿の後半部分から29篇を収録。
目次
よくある出来事
サンチョ・パンサをめぐる真実
人魚の沈黙
救世主の到来
使者
プロメテウス
原罪
アブラハム
アフォリズム集成
父への手紙
夜
却下
掟の問題
徴兵
ポセイドン
町の紋章
整理
禿鷹
獣
小さな寓話
こま
弁護士
貂
ある犬の研究
ある館の守りをめぐる情景
夫婦
棺
巣穴
著者等紹介
カフカ,フランツ[カフカ,フランツ][Kafka,Franz]
1883‐1924。チェコのプラハに生まれる(当時はオーストリア=ハンガリー帝国領)。両親ともドイツ系ユダヤ人。プラハ大学で法学を専攻。在学中に小説の習作を始める。卒業後は労働者傷害保険協会に勤めながら執筆にはげむ。若くして結核にかかり、41歳で死去。『変身』などわずかな作品をのぞき、そのほとんどは発表されることなくノートに残された
池内紀[イケウチオサム]
1940年、兵庫県姫路市生まれ。ドイツ文学者、エッセイスト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぞしま
17
ある程度まとめてカフカの作品を読んできたけど、そこに、ある断絶が存在する(している)ことをよく感じていた。伝達不可能なことの怖さや滑稽さ、それらが増殖していく一方で、文章自体の持つある力は、端正さにも似て、それら不穏さと無関係に立ち上がってくる。結局、当の物語の中心的視座も俯瞰的な視座も、どちらもすごくカフカって感じがする(よくわからない)。 アフォリズム、父への手紙、ある犬の研究、夫婦、巣穴、が印象深い。犬は、二十日鼠の姉妹版という趣きで素晴らしい。巣穴は、城、万里の長城に通ずる愛すべきお家芸て感じ。2019/01/30
風に吹かれて
16
カフカは多くの手稿を残した。この本には、吐血し結核と診断された1917年秋以降の手稿が収録されている。 109までの番号が付された「アフォリズム集成」の中の22、「おまえが課題そのものであって、どこにも生徒などいない。」は印象に残るもののひとつ。70ページほどの父との関わりから自己分析する「父への手紙」は課題に対する回答のひとつかもしれない。 →2024/09/04
阿呆った(旧・ことうら)
15
◆カフカのアフォリズム、父への手紙、書きかけの断章。◆カフカの物語が「そもそも先に進まない」「前提で躓き、事態が全く好転しない」不条理感があるのは、ユダヤ人という境遇の他に、独断的な父の影響が大きい。◆手紙に『幼かった当時、あの頃こそ、何であれ励ましが欲しかった』とあるように、カフカはのびのびと振る舞えず、ダブルバインド(「来い」「なぜ来た!?来るな」というような、矛盾するコミュニケーション)の状況に長くさらされたのだ。◆その苦しみが20世紀の傑作を産んだという、皮肉にも、父の賜物である。2017/03/09
koke
10
〈父への手紙〉を読むために手にとりました。凄まじいエネルギーを注いで書かれたものだと思いますが、この手紙は実際に父に届くことはなかったとのことです。父の存在に囚われたまま、カフカの中で滞留し続けたものがあったのだろうと想像します。強く思い感情がありながらも、うねうねと回り道しながら整えられたような文章でカフカらしさを感じました。2024/03/09
ねむ
6
カフカがその辺の紙やノートなどに書き留めた言葉や短篇を主にまとめたもの。おもしろくなってきたぞと思うと中断、のパターンがいくつもあって、何が不満でそこで書くのをやめたのか不思議になる。父への手紙は、よくまあ感情を大爆発させずにこれだけ文句が書けるものだと感心してしまうほど。2021/05/12