内容説明
仮に第二次大戦でドイツが敗けず、ヒトラーがまだ死んでいなかったら…。ヒトラーの私設ポルノグラファーになった男を物語の中心に据え、現実の二十世紀と幻のそれとの複雑なからみ合いを瞠目すべき幻視力で描き出した傑作。
著者等紹介
エリクソン,スティーヴ[エリクソン,スティーヴ][Erickson,Steve]
1950年カリフォルニア生まれ。1985年Days Between Stations『彷徨う日々』で作家デビュー。以後、驚嘆すべき想像力と、時代を微視・巨視両方の視点ですくいとるユニークな手法で問題作を発表しつづけている
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
67
手ごわかったが目が離せない。所謂ナチス勝利物の範疇に入るのであろうが、そこで語られる歴史が本来の歴史であり、それらが互いに影響し合い混じり合っていく。鏡を覗くとそこに別の世界、別の二十世紀がありお互いが侵入しようとしているみたい。特に中盤以降の歴史の混ざり合いは幻視とはよく言ったもので、終盤のXとの旅は静謐ささえ覚えるほど。登場人物も歴史や物語の影に飲まれた操り人形のようにも思えるし。特に終盤バラバラだった出来事が繋がっていく様や、円環を描くような物語構造にはそれが始まってから圧倒されっぱなしでした。2016/07/27
zirou1984
49
本作を終盤まで読み進めた時、迂闊にもこの小説をもっと読んでいたい、読み終わるのが惜しいと心から思ってしまった。20世紀という文明と暴力が咲き乱れた時代を、こうであったかもしれない歴史と並行して封じ込め、そこに物語の可能性を、個人の持つ愛と想像力の可能性を証明する。枝分かれしたはずな歴史が幾度となく重なろうと、干渉し合う魔術的世界観。イマジネーションをざくざくと切り刻まれるような言葉のパワーは、柴田元幸の翻訳によって巧みな日本語に昇華されている。圧倒的かつ極悦至福な読書体験を味わえる、極上の書物。2017/01/28
かわうそ
36
史実と虚構の20世紀が並走しながら時折交差し浸食しあう構造の巧みさにうなりつつ物語の奔流に圧倒される。前後関係は逆なんだろうけどすごく古川日出男さんっぽいなと感じた。2016/02/07
マリリン
32
...感想を書くのが難しい。幻視なのか幻想なのか、意外な形でヒトラーが絡んでいる。リアス形状の暗い時空を回転しながら踊るデーニア。この辺からが特に面白かったが、Zとは、老人とは。AH…か。 生と死が交錯し動物のように交わる様が、不思議な雰囲気を醸し出し、飛び交う世界についていけない感もあったが、個人的には面白い作品だと思った。冒頭の、ウイリアム・L・シャイラー『第三帝国の興亡』は興味がある。時間をかけ再読しないと、消化しきれないかもしれない。何故この作品を知ったのか、覚えていない。2019/05/31
スミス市松
28
「二十世紀」「第二次世界大戦」の大文字看板を引き裂いて、愛と幻想の混ざった粘稠な液体が溢れるほどに迸り読者を真っ黒な時間の大瀑布に突き落とす。ときに沸騰し、ときに凝固するどす黒い奔流の中で、二つの時間が交錯し何か身体の組成が組み換えられていくような感覚は男と女を始まりから遠く離れた地点へ押し流してしまう。私たちの後ろにある歴史、そこには一体何があり、どんなふうに出来上がってきたのか。あるいはこの世界は一人の妄執狂の男が夜を徹して書きあげた長い手紙でしかないのかもしれない――「だが私は彼女を愛していたのだ」2012/06/25