内容説明
動物学者の夫婦が砂丘で撲殺された。夫の手はかろうじて妻の脚に触れていたが…二人の死体には海辺の生き物が群がり、肉を貪る…。無慈悲な死と冷徹な自然に、二人の愛も最期を迎えるのか?全米批評家協会賞受賞作品、『ニューヨーク・タイムズ』年間最優秀作品。
著者等紹介
クレイス,ジム[クレイス,ジム][Crace,Jim]
1946年、英国生まれ。死や宗教などをテーマに、これまで8つの作品を発表している。‘Continent’でウィットブレッド文学(処女作)賞、E.M.フォースター賞を受賞、『四十日』でウィットブレッド文学賞を受賞、『死んでいる』で全米批評家協会賞を受賞、『ニューヨーク・タイムズ』年間最優秀作品に選ばれる
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
315
「全米批評家協会賞」、「ニューヨーク・タイムズ年間最優秀作品」を受賞しており、アメリカでの評価は絶大といっていいほど。なお、著者のジム・クレイスはイギリス人。奇妙なタイトルだが、これは原題"Being Dead"の直訳。初老の夫婦の死体が小説の主役なのだが、タイトル通りにきわめて即物的に描かれてゆく。たしかに「神なき時代の物語」であるのかも知れない。物語の時間軸は彼らの若き日の大過去と、命を失った日の近過去、そして娘が彼らの消息をたずねる現代と、からなる。このあたりが、この小説のいわば眼目だ。⇒2016/04/10
遥かなる想い
211
2000年度全米批評家協会賞受賞。 奇妙な雰囲気を感じていた。 動物学者の中年夫婦ジョゼフとセリースが 砂丘で撲殺される。その死を悼むでもなく 謎解きをするわけでもなく、ただ淡々と 描写が続く。著者が描こうとする世界は 何だったのだろうか。 「死」により 肉体のみならず 二人の過ごした 記憶も解体されていく..ひどく冷静に 読めるのは 二人は既に「死んでいる」から なのか..悔いなく人生を送れたからなのか.. おそらく悔いなく生きた二人の物語だった。2016/04/14
ケイ
144
読み手により読後の印象は様々だろう。私には愛が溢れた。セックスは、行為の完成がなくとも、相手に触れ愛しさを確認するもの。新たなる生命を生み出すものでもある。また、死すらも他の命につながっていく。死体に群がる微生物や虫や甲殻類は、各々に必要な物を取得する。放っておかれた死体は、そこがアスファルトではなく砂の上ならば自然がいつか処理してくれる。そして、生命は繋がっていく。彼らは愛を育み、愛を伝えて去った。神は見守っていただろうか。そうでなかったとしても、自然が彼らを包み込む。棺なんて本当は必要ないのだ。2016/08/28
まふ
118
海洋動物学者の夫婦が海辺で死んでいる。金品を奪われ撲殺されたまま放置され死体として早くも微小生物、ハエ、カニ、カモメなどの餌食となり自然の循環過程に入っている。学者夫婦の二人の出会いや浜辺での腐食浸食作用を受ける死体の描写が続く。死体はしばらく放置されたままようやく発見され、一人娘に確認される。が、この小説は犯人を捜すわけでもなく、ひたすら死体の即物的な変化を見届けるためのものらしい。警察の捜査も描かれずに幕は下りる。まさに「死んでいる(Being dead)」だけ。不思議な小説であった。G1000。2023/09/25
扉のこちら側
95
2017年154冊め。【284/G1000】冒頭で殺された夫婦を巡る話ではあるが、犯人捜しのミステリだったり、遺された家族がその悲しみから恢復するとか、そういう方向の話ではない。いや、後者は「なぜ死ななければならなかったのか」という疑問を追求するという点では外れてはいないのだろうが。死んでいる話だが、生きていた物語である。人の死に慣れているとは言わないが、身につまされるものがあった。もうじきなくなる二人の愛の始まりの地の描写が美しく印象深い作品だった。2017/02/14