出版社内容情報
ホフマンの幻想とカフカの不条理――イノセンスとユーモアが混在し、背徳とエロティシズムが奇妙に乱反射する――マンディアルグが絶賛した幻想の妖女譚「水蜘蛛」をはじめ、永遠の瞬間を百合のひとひらに極めんとした「血と百合」等、夢の現実、生と死に引き裂かれる魂の冒険を描く戦慄の短篇集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
111
私が一番好きなフランスの作家マルセル・ベアリュの傑作短篇集。この作家の作品は、幻想と奇想を巧みに融合させたものばかりで、一度読んだら心の中から離れなくなる。さらに詩的な描写が巧みで、脳裏に幻想的なイメージが浮かんでくる。表題作は文字通り水の蜘蛛という不思議な生物が出てくる物語。エロチックで、同時に恐怖を呼び起こす蜘蛛の描写が強烈だ。嬉しいことに作者による装画も収録されていて、これがシュールでグロテスクで読者の想像力を刺激する。幻想の世界が現実に侵食してくる結末が見事だった。2018/08/18
mii22.
47
敬愛する皆川博子さんのおすすめなので読んでみた表題作「水蜘蛛」。なんとも怪しげな題名と雰囲気ににんまりが止まらない。久しぶりに幻想小説よんだーという感じ。その他の短篇もどれも面白くて表題作だけのつもりがどんど読み進んだ。表題作「水蜘蛛」の他、オチが想像の範囲ないなのにラストの一文にはっとさせられた「宝の島」が印象に残った。2022/09/20
藤月はな(灯れ松明の火)
42
読友さんの感想から興味を持ち、読みました。表題作は唄う水蜘蛛に恋した男の話。彼を愛した水蜘蛛は人間に誓い姿で徐々に変化する様を男に見られたのに逃げなかったのは鶴女房や伊佐那美の逆パターンに感じました。ポーの「黒猫」、「海辺のカフカ」のように猫好きな方には噴飯ものの場面もあり、妻と水蜘蛛を同一視してエゴで死なせようとした男は誰よりも醜悪でした。後の作品は倉橋由美子、山尾悠子、フェンティスなどの作品にも似た、眩惑的世界観と清潔にも思えるグロテスク、そして強烈な皮肉と寂しさを残していきます。2013/06/02
かわうそ
30
幻想的でありながら精緻な描写はヴィジュアルイメージがわきやすく不条理であっても難解ではない。ユーモラスで切れ味鋭い作品もあってエンタテイメント性が高くかなり好みのタイプ。数ページの掌編「読書熱」「三人の配達人」あたりが特に好きです。2014/08/28
YO)))
26
序文でマンディアルグ先生が激賞しているとおり,表題作「水蜘蛛」は私にとってもカンペキな一編だった. 無垢と残酷,快楽と恐怖,幻想と幻視,異形との愛,おまけに猫,全てが詰まっていてしかも流れるような. 村人の視線の描写で一瞬現実に引き戻されてゾッとする辺りも好きだなぁ. 巻末の「百合と血」は,出来としてはやや散漫な気がするものの,モチーフとしてはもの凄く好み. "バロック的な崇高" "肉感的な清澄"をもとめて白い百合に偏執する退廃ディレッタント野郎のデュバル氏が最高.2015/08/16