出版社内容情報
黒い笑いのこだまする大学のキャンパスに繰り広げられる残酷な愛の物語。「過去数年間に現われた最も魅力的にしてかつ恐ろしいヒーローの1人」とタイム誌に評された主人公ジェイコブ・ホーナーが巻き起こすスキャンダラスな行為の数々。彼が旅路の果てに見出したものは何だったのか?
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
神太郎
25
最初の一文がとても印象的だ。「ある意味で、ぼく、ジェイコブ・ホーナーだ」ここからどんなロードムービーのような話が始まるのかと思いきや、そんなことはなく。日常もの(後半はそうではないが)であるのに、一つ一つなかなかに言ってることが小難しい。故に読み進めるのが途中億劫になった。ジョーという主人公と似て非なる存在はどうして物事をそう面倒くさくとらえようとする?知識人への皮肉か。ジェイコブ、ジョーそして二人に振り回されるレニーの選択が物語をかき回し、加速し、破綻していく。最後のカタルシスはなかなかだ。→2021/01/23
sabosashi
11
もしそれが出来るものと仮定して正常と異常とに二分した場合、異常の領域に振り分けることができるような人物と世界。社会に適応していくことはかならずしも難儀をともなうものではない。しかしそこに人間関係がかかわってくると話はかわる。しかも過剰な論理が吹き込まれてくると、病まずにはいられなくなりそう。そんな緊迫感のある語りは魅力的でもある。しかしひとたび、語られていることの向こう側に忍び込もうとすると、厄介なことになりそう。身につまされる話ではある。2021/05/17
バナナフィッシュ。
10
錯綜した人物と錯綜した会話、出来事。はぐらかしているような描写もあるけれど、そのおおざっぱなところがいい。超越している人物だと思っていたジョーが思想に囚われるあまり、最も常軌を逸した行動を選択するようになるのも面白い。そう、ただ面白いという観点からみればこの本は良書。2016/04/01
pyoko45
10
全く救われない話で、読んでいてやりきれなくなった。自己の完全性を保つために、人の心の中にまで立ち入ってまでして、あらゆることにいちいち理屈をつけ筋を通そうとするジョーの行動が、このとても痛ましい悲劇を巻き起こしているように思えた。結局のところ、適当なところで割り切って、つじつま合わせをし続けるホーナーのような生き方が自分の身を守ることになるということなのか。周りを不幸にしたとしても・・・うーん切なすぎる。2012/08/01
スミス市松
9
ほんとうに救われないのは、この小説に登場するそれぞれの人物が、〈神話療法〉の仮面のひとつでしか在り続けないということである。誰ひとり〈神話療法〉を否定して生きることができないのである。〈神話療法〉という観念をもって生きることは不完全で、愚かで、他者を傷つける。しかし彼らはそのことを知りながら、己があてはめた仮面を被り続けなければいけないのだ。僕は登場人物の誰にも感情移入することができなかった一方で、彼らの姿はとても痛々しく見てられなかった。旅路の果てには、ただただ見渡す限り荒涼で脆弱な地平が広がっていた。2010/06/10




