出版社内容情報
ヴォネガットは日本で一番よく読まれている現代アメリカ作家の一人である。本書はその中でも、ヴォネガットの傑作と言ってよい。第2次世界大戦でナチス・ドイツの対米宣伝放送を行ない、一方でアメリカのスパイとして情報を送る男の波乱に満ちた話は分裂症的な現代にピッタリということになる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Koichiro Minematsu
46
戦時下でスパイとして生きた主人公のモラルは、結局のところ己が許せなかった、生き方に真剣ではなかったと、一度きりの暴力で、自ら裁判されることとなる。それを自ら望む。 戦時下のドレスデンで空襲にあったヴォネガットの心情が垣間見える。2025/04/29
yumiha
44
ナチスドイツの優性思想の愚かしさと残虐性、その被害をこうむったユダヤ人(簡略化すればナチス=悪、ユダヤ人=善)という図式が私の頭の中にあったのだけれど、アメリカ生まれのドイツ人キャンベルの独白は、それに待った❗️をかける。「悪とは(略)神を味方につけて人を憎もうとする気持」とキャンベルの言葉を、神→正義と読み替えれば、私の周りにも溢れているものだ。それを体現化するような登場人物たちは、自分が正しいと思いたいから、自分を動かす歯車の歯を故意に抜いて、私から見れば支離滅裂な言動ばかり。はぁ~っ😮💨2023/11/06
jahmatsu
42
ナチと大戦のスパイの物語だったが、そこはヴォネガットらしいシニカルなユーモアが上手くブレンドされ悲壮感なり全く重苦しさを全く感じない。だけど言葉がやけに刺さる。最後のオヘアに対して語るあたりなどグッとくる。 自分的にはヴォネガットで一番好きな作品かも。2020/05/18
かんやん
34
アメリカ人でありながら、ナチス・ドイツで劇作家とした成功した主人公は、アメリカのスパイとなるが、反ユダヤのプロパガンダ放送(そこに秘密情報を暗号化している)を行ったため、戦後に窮地に陥る。かなり無理のある設定であるが、リアリズムではなく、風刺的な内容。皮肉で滑稽で、徒労感と無感動とが奇妙にブレンドされている。きっと著者の持ち味だろう。歴史や社会を突き放して見るセンス。冷めている。熱狂したり、正義を振りかざしたりしない。テーマ小説は好きではないけれど、この著者のセンスはどうしても嫌いになれない。2020/04/27
A.T
30
ナチス親衛隊広報官、ユダヤ人、アウシュヴィッツ、アメリカのスパイ、スパイの妻、ロシア人スパイ…と役者は揃った。それぞれはお決まりの役割を演じる。まさに、役割なのだ。アウシュヴィッツに収容されたユダヤ人すらも、収容所の運営に協力して処理班に志願、処理するのは自分の前に志願した処理係の死体だ、ガス室に行けと言われて行かないものもいない…と言った具合に。主人公も自分が組織の何を担っているのかわからずにスパイ活動を遂行する、と言った具合に。では、今の自分もそうでないと言えるだろうか。。。2020/04/29