感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
343
史劇たる『リチャード4世』(第1部、第2部)の中でも、その本来のプロットからは独立して、フォールスタッフの喜劇が展開されていた。シェイクスピアも、あるいは本来の史劇だけでは自己の劇を発揮しようがなかったのだろうか。そうした憤懣を一気に開放するかの如く、この作品ではフォールスタッフを道化役に観客一同で大いに笑い飛ばそうというのである。ことに圧巻なのは劇の終幕近く、ウィンザーの森での(偽物の)妖精たちが乱舞するシーンだろう。あたかも、この場面だけのために劇全体が構想されたかのようである。2022/03/05
まふ
107
臆病者で役に立たず、大酒飲みで強欲、狡猾で好色だが、機知に恵まれた憎めない大兵肥満の老騎士フォールスタッフが、同時に二人の既婚の婦人に同文の恋文を出したことがバレてコテンパンに制裁を加えられる、というドタバタ喜劇。脂ぎったぶよぶよの巨大な体型と口臭体臭並びにあたり憚らぬ大音声のだみ声が読むほどに想像できて「一緒に居たくない人物」像ではあるが、それだけにカッコつけないナマの人間味がリアルににじみ出てくる人気キャラクターなのであろう。2023/08/27
きいち
27
笑いの質がなんだか違う。歴史劇に感じてきたような同時代性は感じないけれど、それが悪いわけじゃなくて、プランBの世界観のような。書かれたのは1600年ごろ、歌舞伎の成立とほぼ同時期か、なんとなく納得。◇スリランカの絵本で「きつねのホイティ」というのがある。親切にしてやったのに馬鹿にしてきたキツネに、奥さんたちが機転効かせて恥をかかせる話。世界共通のネタなんだなあ。◇こちらは大人向け、際どい台詞聞かせつつ、言葉遊び縦横無尽に、とにかく皆でヘンリー四世の「フォールスタッフ」というキャラを確立させていく。楽しい。2019/04/27
有沢翔治@文芸同人誌配布中
13
ヘンリー四世のスピンオフ作品。女好きで酒飲みのフォルスタッフがウィンザーで喜劇を繰り広げる。シェイクスピアは恋愛の相手を勘違いする話が多く、今回もその派生です。詳しくはこちら。http://blog.livedoor.jp/shoji_arisawa/archives/51491190.html2017/10/06
roughfractus02
10
激変する近代資本主義世界同様、移り行く心を持つ人物をラウンドキャラクターと呼んだE.M.フォスターは、それ以前の一つの性格のみを表す人物をフラットキャラクターと呼んだ。中世が舞台の近代的悲劇『ヘンリー四世』の立体的人物たちの中で中世的笑いを挿入した平面的フォールスタッフを中心に配した本作では、登場人物全てが一つの性格と役を貫き、喜劇的仕掛けを総ざらいしつつ物語を走らせる。悪徳は疑念や不信や勘違いを誘発するが企みはすぐ悟られ、本心と見せかけの二重の関係も何度も容易に破られると、際限のない笑いが生み出される。2019/12/05