内容説明
廃墟の街ベルリンへと向かう列車、窓から殺人現場の見えるホテル、SMプレイに魅せられた少女のいる人形店…華麗なる迷宮を、秘密の使命を帯びた“私”がさまよう5日間。
著者等紹介
ロブ=グリエ,アラン[ロブグリエ,アラン][Robbe‐Grillet,Alain]
1922年、フランスのブレストに生まれる。国立農業技術専門学校を出て、バナナなどの熱帯果実を研究する技師として仏領植民地を転々とするが、熱帯病で帰国の船上で書いた『消しゴム』で、作家としてデビュー。ジョルジュ・バタイユやロラン・バルトらの積極的な支持を受けながら、創作活動と並行して評論集『新しい小説のために』を発表し、ヌーヴォー・ロマンの旗手として活躍する。また、『去年マリエンドートで』のシナリオを執筆して以後、映画監督としても実績を重ね、『不滅の女』『快楽の漸進的横滑り』『囚われの美女』など8本を手がけている
平岡篤頼[ヒラオカトクヨシ]
1929年生。1952年早稲田大学文学部卒。フランス文学専攻。早稲田大学名誉教授
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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harass
50
アンチ・ロマンの旗手による2001年に発表された小説。彼のデビュー作『消しゴム』の構造と同じで、これまでの作品のフレーズなどを登場させている。戦後直後のベルリンを舞台に各国管理地域を行き来する諜報部員が主人公であるが、語り手が一定していない。主人公のそっくりさんも同じく語る始末。批評的で誰が語ってるのか不明な原註が数回挿入される。不可解なエピソードの連発に混乱する主人公と読者。やたらに精確な描写などはこの作家らしい。細かな仕掛けが満載していると解説。「B級探偵もののパロディ小説」として読むべきという。2017/05/20
Vakira
33
ロブ=グリエ節炸裂 真骨頂~ 今回の舞台は第二次世界大戦のベルリン。主人公は特殊工作員。初っ端から殺人事件。警察と少女売春業者の癒着、SM的拷問、裏切り。B級エンタテイメントスパイミステリーが単純に面白い。殺人犯は誰?主人公の工作員、ドッペルゲンガーのもう一人、語りの私 が知らないうちに入れ代る。結局 私は誰なのか?毎度コボちゃん的。おお~また 量子力学的迷宮だ~ 今回更に新試行。よく文中に※印やナンバーを付けて巻末に訳註があったりしますが、訳註が段々物語りになっていきます。知らないうちにメインストーリー2019/01/11
ドン•マルロー
29
読後感は映画『去年マリエンバートで』を見終えた時と似ている。あらゆる事柄がさまざまなかたちで反復されるのには眩暈を覚えずにはいられない。二度息子に殺される父親、ドッペルゲンガーのような双子、呼び名の数だけ複数に存在しうる人物たち、喚起される過去、云々。だが、実際これらの反復現象は決して読者を迷路に誘いこむためではない。エプグラフのキルケゴールの言葉にある通り、本当の反復とは前方を向いた回想なのだ。毎日通る道でも意識次第で新奇な点を発見できるように、反復の先には全く新たな展望がひらけているのかもしれない。2016/04/17
鷹図
14
評判通り、小説の約束事を放棄した様な作風。人称の勝手気ままな変化、語り手の突然の交替、本編に口を挟む脚注の存在等々…。さすがに違和感を覚え、先回りして訳者による解説を読むと「気にせず読め」みたいなことが書いてあって驚くが、さもありなん。全編、推理小説(のパロディ)風ではあるけれど、何一つ真相は明きらかにされないのだから。頻出する過去作のモチーフの扱い方は、究めて自己言及的(自己参照的?)。この仕掛け自体も過去作の「反復」なわけだが、過去作を精緻に再構築し、さらには解体してみせる手際に、焼き直しの感はない。2013/03/14
ラウリスタ~
13
あまりに、あまりに混乱した本。『消しゴム』とほぼ一緒のプロット、と行ってよい。自分が遥か昔に書いた小説を、反復し、登場人物の語りは、別の視点から絶えず語り直され、「殺し」は一度では終えられない。どうやらこの世界では最低でも2回か3回かは殺されなければならないようだ。『反復』の異常なまでの混乱は、主人公と、その分身の二重性に終わるのではなく、そこに意味不明の「わたし」が介入することにある。「わたし」は訳の分からないことに小説時から50年以上も後の、2000年前後の出来事について語りだす。お前誰だよ!2013/12/02